木枯らしと風鈴
蝉時雨が響く中、ぬるい風が吹く度にちりんと澄んだ音が聞こえてくる。
部屋の前に吊り下げられた風鈴は、初夏の頃に仙蔵が町で買ってきたものだ。
透き通った紫のそれは、なんとなく彼らしいと思った。

「暑さが紛れていいだろう」

と、言った仙蔵を

「心頭滅却すれば火もまた涼しじゃなかったのか」

と、揶揄すれば、

「お前は風流を介さぬつまらん男だな」

と、すげなく返された。
実際、風流には大して興味もなかったが、その風鈴のおかげか、猛暑もあまり不快ではなかった。





それから幾月か経ったが、風鈴はすっかり冷たくなった風に揺れていた。
秋になり、冬が間近になっても風に吹かれてちりんと鳴るそれは、なんとも滑稽だった。

らしくないと思う。

何故、仙蔵はいつまでも風鈴を吊り下げ続けているのだろうか。
衝立ての向こうにいる彼にそれを問うと、

「暑さを紛らわせるためだ」

といった答えが返ってきた。
随分と季節外れな答えである。

「今は暑くないだろう」

「文次郎が暑苦しいだろ」

風鈴のおかげで多少はましだがな、と仙蔵は笑った。

「お前なぁ……」

言い返そうかと思ったが、木枯らし吹かれた風鈴の音にその気力も削がれてしまった。
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