芋が飛んできた
芋が飛んできて額に当たった。
地味に痛む額を押さえて、飛んできた方を見遣ると、袋を提げた三郎次先輩がいた。

「三郎次先輩、どうして芋を投げるんですか!?」

「芋じゃない。山芋だ」

「そういう問題じゃありません!」

「そう怒るなよ。カルシウムが足りてないんじゃないか?」

「三郎次先輩が怒らせるようなことしなければいいんですよ!」

当人は冗談のつもりらしいけど、こっちにしてみればいい迷惑だ。
同じ火薬委員会の久々知先輩やタカ丸さんはすごくいい先輩なのに、どうして三郎次先輩はこう意地悪なんだろう。

「ひとをからかうのも、いい加減にしてください!」

「あっ!」

「えっ?」

三郎次先輩が声を上げて右を指差した。つられて振り向くけど、何もない。瞬間、また頭に何かが当たった。
見下ろすと、足元に山芋が二つ転がっていた。

「三郎次先輩!騙しましたね!」

「いやー、一年生は本当に素直だなー」

笑いながら三郎次先輩は袋から芋を取り出し、また投げた。
今度は左に避けて躱す。
ほっとしたのもつかの間、芋が矢継ぎ早に飛んできた。
けれど、ほとんど避けることが出来た。三郎次先輩は癖なのか右半身ばかり狙ってくるから、慣れれば躱すのは簡単だった。
芋がなくなったらしく、三郎次先輩は手を止めた。

「ところで、伊助」

「なんですか?」

反射的に身構える。

「久々知先輩からの伝言。今日の火薬委員会の活動は中止だってさ」

「そういうことは最初に言ってください!」

「ごめんごめん。忘れてた」

「そんな重要なことを忘れないでくださいよ!」

「隙あり」

また芋が飛んできた。
気付いた時にはもう遅く、芋は右肩に当たって地面に落ちた。

「またですか!」

「油断大敵火がボーボーだ。そんなんだから、授業中に手裏剣で怪我するんだぞ」

思わず、左腕を押さえた。
包帯は見えていないはずなのに。

「どうして……?」

「左近から聞いた。ほんと、鈍臭い奴だな」

「うっ、うるさいです!」

怪我をしたのは自分の落ち度だけど、三郎次先輩に言われるのは腹が立つ。川西先輩も、どうして三郎次先輩なんかに教えるかな。
けらけらと、三郎次先輩は声をたてて笑った。

「それだけ元気なら、怪我もすぐ治るな。あまり、先輩に心配かけさせるなよ」

「言われなくてもわかってますよ」

「どうだか」

三郎次先輩は踵を返して行ってしまった。
よかった。やっとからかわれなくてすむ。
……って、

「芋、片付けていってくださいよ!」

地面に転がる山芋に囲まれて、僕は叫んだ。
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