奥の手
・五年と六年が合同演習で戦ってる
・一人一枚札を持っていて、それを奪われたら負け
・突然始まって突然終わる
「後は鉢屋三郎だけか」
奪い取った札を掌の中で弄びながら、文次郎は独りごちた。
一番面倒な奴が残ってしまった。
六年生に変装して紛れ込んでいたら厄介だ。合言葉は決めてあるが、知られている可能性も考慮した方がいいだろう。
「文次郎!」
「留三郎か」
声がした方に目をやると、木の上から留三郎が降りてきた。
留三郎は文次郎の近くまで来ると、神妙な顔で口を開いた。
「恋の呪文は」
「スキトキメキトキス」
「開け」
「夢の扉」
「梅干し食べて」
「スッパマン」
「よし、文次郎だな」
「そっちは本当に留三郎か?」
文次郎は留三郎の顔に向かって腕を突き出した。文次郎の手が顔を掴む寸前、留三郎がその腕を掴む。そのまま投げ飛ばそうとすると、文次郎は身を捩って逃れた。
「確かに、留三郎だな」
「わざわざこんな面倒な確認方法をとるな!合言葉の意味がないだろ!」
「バカタレ!鉢屋に知られているかもしれないだろうが!」
「ああ、そうだった。鉢屋を見付けたから知らせに来たんだ」
途端に互いに熱が引く。
今はこんなことで争っている場合ではない。実習中だ。成績に響く。なにより六年生が五年生に負けるなど、誇りが許さない。
「本当か?」
「ああ、今長次が追っている。しかし、問題があってな」
留三郎が言葉を濁す。そのまま黙ってしまったが、ややあって再び口を開いた。
「鉢屋が、大きな黒くて丸い耳を持ったネズミのような頭で『やあ、ぼく●ッ●ー』とか言ってるんだ」
「それは、まさか!?」
「世界一有名なネズミだ」
それは、誰もが知っているマスコットキャラクターであり、著作権の厳しさから非公式な場面では決して姿を現さない、仮に現したとしてもそれに関わった者は消されてしまうという恐ろしい伝説を持つネズミだ。
「あいつ、画面に出ないつもりか!」
「確かに、画面に出なければ負けることはない。五年生最後の一人だ。展開上、それが描写されないことは不自然でしかない」
「戦おうとすれば、必ず著作権に引っ掛かってしまうというわけか」
「あの野郎、ふざけやがって!」
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