転寝人にいたずらを
自室の戸を開けると文次郎が寝ていた。
珍しすぎる光景に仙蔵は瞠目し、ややあって合点がいった。
あまりにも文次郎が徹夜ばかりするので、心配した伊作が眠り薬を盛ろうと画策していたのだ。この様子だと、うまくいったのだろう。
仙蔵は文次郎を避けて部屋の奥に行き、油皿に火を点けた。
すでに日は沈んでしまっていたが、寝るには少々早い。
長次に奨められた本を書架から取り出し、文机の上で開いた。
様々な火器の製造法が書かれているこれは、本来ならば持ち出し厳禁なのだが、図書委員長の権限で長次はよく仙蔵のためにこういった本を持ってきてくれる。文字として書かれているものを実物として見ることが、彼は楽しいらしい。
今度作ってみるかと思いつつ、しばらくはそのまま読み進めていたのだが、急に背後の寝息が気になり始めた。
同室だというのにおかしな話だが、文次郎が布団に入って部屋で寝ているという光景は珍妙だった。常ならば、鍛練と称して池や塹壕の中で眠るか、徹夜で鍛練や会計委員会の仕事ばかりしているため、昔ならいざ知らず、文次郎が布団で寝ている姿など、六年生になってからは片手で数えるほどしか見たことがない。布団で寝たとしても、仙蔵より遅くに寝て早くに起きるためなおさらだ。
ふと思い立ち、仙蔵は本を閉じて文次郎の枕元に寄った。
試しに硬い髪を引っ張ったり顔を軽く叩いて見たが、起きる気配はまったくない。
伊作が調合した眠り薬だから当然だ。明日の朝まで起きることはないだろう。
仙蔵はにやりと口角を吊り上げ、硯箱から筆を取り出した。
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