理由
*そこはかとなく鉢雷


「どうして、いつも雷蔵に変装をしているんだ?」

その質問は、いままで何度もされたものだった。
同輩にも、先輩にも、後輩にも、教師にも。
その度に、私は答えに窮する。
なんと言えばいいのかわからない。上手い言葉が見付からない。
好きとか友情とか恋とか憧れとか尊敬とかとは、少し違う。
ただ、雷蔵が大事だった。
一生のうちの一番大事な時間を一番多く一緒に過ごして、同じ部屋で同じものを食べて、同じ空気を吸って、自分の身体の一部のように思っていた。
だから、私は雷蔵の顔でいる。
私なりの愛情表現なんだ。
とはいえ、それを話したところで理解されるはずもないから、

「今度からお前の顔にしてやろうか?」

「やめてくれ。迷惑でしかない」

今日も適当にはぐらかすのだった。
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