カメラ
高校の入学式の日の朝、記念だからと制服姿で写真を撮り、あとはバスが来るまで待つだけになった。
今のうちに片付けてしまおうと祖父からカメラを受け取り、ふと紡はフィルムの残数を確認する。もう三枚分しか残っていない。これなら使い切ってしまった方がいいかもしれない。
そう提案しようと振り返り、ちさき、と庭先にいる彼女を呼ぼうとする。だが、その声は音になることなく消えた。
桜の花弁が散る中、ちさきが遠い目をして海を見つめていた。陽の光にエナが煌めいて、澄んだ青の瞳が切なげに揺れる。白昼夢でも見ているかのような横顔は儚げで、そのままどこかにいってしまいそうで、思わずカメラを持ち上げてここに留めるようにシャッターを切った。
シャッター音が鳴り響き、夢から覚めたようにちさきが振り返る。丸くした目で紡の持つカメラを認め、むっと唇を尖らせた。
「ちょっと、紡!」
そのさまも愛らしくて、ついまたシャッターボタンを押してしまう。
再び鳴ったシャッター音にますますちさきは頬を膨らませて詰め寄ってきた。
「今、勝手に撮ったでしょ」
「ああ。フィルム使い切ろうと思って」
「だったら、先に言ってよ。たまに変なことするんだから」
もう、とぼやかれるが、それでもこちらを見てくれることに安堵する。そのせいで反省してないように見えたのか――実際していないが――、目を眇めてため息をつかれた。
「フィルム、まだ残ってる?」
「あと一枚だけ」
「じゃあ、最後はみんなで撮ろう」
おじいちゃんも一緒に! とちさきが勇に声をかける。確かに今は隣にいる彼女を見つめて、紡はそっと目を細めた。