エレベーター内の壁際で、突然顔のすぐ横に置かれた手と、目の前にまで近づいた自分のとはまるで違う首筋にどきりとする。「大丈夫か?」と頭上から振ってきた言葉に人混みから庇ってくれたのだと気付いた。
「うん、ありがとう。今日、人多いね」
「そうだな」
一度黙ってしまうと、やけに鼓動がうるさく聞こえて落ち着かない。不満げな喧噪すらかき消してしまいそうだ。紡にまで聞こえてしまったら、どうしよう。
「……今日、人多いね」
誤魔化すように繰り返してしまった言葉に、また「そうだな」と返す声がいつもより近くて、きゅっと胸が痛んだ。
ちさきは高校入学辺りから紡への想いを自覚しはじめたのだろうと考えてます。