ふと手にとってみたフェミニンなワンピースはとても可愛く、一目で心が惹かれた。
けれど、それを着た自分を想像するといまいち似合わなくて、一瞬上がった気分が一気に下がる。こういう服が似合うのはまなかみたいな小さくて可愛い女の子で、自分ではない。
ため息をついてちさきはワンピースを戻した。
「買わないのか?」
意外そうに問いかけられて顔を上げる。
じっと窺うようにこちらを見つめる紡にちさきは苦笑を返した。
「こういうのは大きいと似合わないから」
「そういうものなのか?」
「やっぱり小さい方が可愛いし……」
口にするとますます気分が沈む。
せっかくのデートなのにこれではだめだと卑屈な考えを追い出そうとするけれど、そうすると余計に意識してしまってうまくいかなかった。
その時、
「俺にはちょうどいいけど」
と、紡がぽつりと呟いた。
ちさきは目を丸くして紡を見上げた。
「なんで?」
そう疑問を口にした時にはもう驚くほど近くに紡の顔があった。一瞬唇に柔らかなものが触れる。それはすぐに離れていったけれど、触れたところから熱が伝導するみたいに顔が熱くなっていった。
「キスがしやすい」
しれっと言い切った紡に唇をわななかせる。一瞬でいろんなものが吹き飛んだ。さらに「可愛い」なんて囁かれて、もう照れ隠しに「ばか」と繰り返すのが精一杯だった。
鍵垢に投げてた書きたいところだけ書いてみたシリーズ。
一応そんなに客のいない周りから死角になるような店の奥での出来事です。