「おまたせ」
弾んだ声に振り返り、紡は息を呑んだ。
ついさっきまでラフな格好をしていたはずのちさきが菫色の浴衣を身に纏っていた。普段はサイドで結っている髪も後ろで一つに纏めて、浴衣の柄と同じ薄紫の花の簪を挿している。
「それ……」
「せっかくの夏祭りだからって、おじいちゃんがだしてきてくれたの」
頬を染めて、ちさきははにかむように微笑んだ。綻んだ唇から甘く柔らかな声が零れる。後れ毛がさらりと揺れる。
ただ微笑んでいるだけなのに艶やかに匂い立つようで、時が止まったかのように目が離せなかった。
そうして言葉も忘れて見惚れていると、
「こういう時、お世辞の一つでも言えないとモテないよ」
と仕方なさそうに苦笑され、はっと我に返った。
「似合ってる、本当に」
「だーめ、もう遅い」
からかうようにちさきは笑う。お世辞なんかではなく本心だったが、今は伝わらないし伝えられなかった。
あまりにも綺麗だから見惚れてしまったことも、他のやつに見せるのが惜しいと思ってしまったことも。
鍵垢に投げてた話として纏まりそうになかったから書きたいところだけ書いたやつ。
ちさきの浴衣が紫なのは紙飛行機の色的に紫は紡の色なので。