子供
「江川くんの子供、無事に産まれたらしいよ。男の子だって」

帰省した紡を駅まで迎えにいって、手を繋いで歩く帰り道。互いの近況を話しているうちに、話題は先日聞いた同級生の吉報になった。

「江川くんがお父さんって、なんだか変な感じがするね」

事前にわかっていたため突然でき婚したと聞いた時より驚きは少なく、素直に祝福する気持ちが湧いてくるが、一方で同級生、それもかなりやんちゃだった江川が父親になったという事実は妙に不思議な感じがしていまいち実感が湧かない。実際に子供といる姿を見ていないからなおさらだ。
紡も同じらしく、そうだな、と苦笑した。

「でも、あいつは面倒見がいいから、案外いい父親になるんじゃないか」

「そうかも。鬱陶しいくらい自慢してくるって、狭山くんぼやいてたし」

産まれる前は娘がよかったって言ってたくせに、とうんざりした顔で愚痴っていた狭山の話をしながら、ちさきはくすくすと笑った。

「そういえば、あかりさんも昔は産むなら女の子がいいと思ってたって言ってたよね。確かに私も女の子がいいって思っちゃうな」

「そういうものなのか?」

「女の子の服の方が可愛くて選ぶの楽しそうだし。紡はどっちがいいとか考えたことないの?」

ぴんときていない顔をしているから、きっとそうなのだろうと思いながらも尋ねる。
だが、紡の答えはちさきの予想とはまったく違うものだった。

「お前との子なら、どっちでも可愛いだろうし」

当然のことのように言い切った紡を見上げて、ちさきは目を見張った。
産むなら、と言っておいて、まだ学生の身では自分の子供なんて現実感のあるものではなく、漠然と思い描いた子供が誰との子かも考えてはいなかった。でも、紡は当たり前のようにちさきとの子供を思い描いてくれるのだ。この先もずっと一緒にいる未来を、曖昧な夢ではなく、地に足のついた現実として。
じわじわと、あたたかなものが胸の内に湧き上がってくる。
繋いだ手と手の間に、いつかは二人の子供が入るのかもしれない。それはなんて愛しく幸せな光景だろう。

「男の子でも女の子でも、紡に似たらなんかすごい子になりそう」

「お前に似たら、少し心配だな」

「それ、どういう意味?」

「色々」

「もう! 言っとくけど、紡に似ても心配だからね!」
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