変わらないもの
挑戦者とのポケモンバトルを終え、トレーナースズクークに併設された宿舎に戻る。
久しぶりに幼馴染3人で会う予定だったのに、急な挑戦者が来たのは誤算だった。予定よりもはやく来たミスミには僕の部屋で待ってるように言っておいたけど、大丈夫だろうか。暇すぎて変なことしてなければいいけど。
自分の部屋の扉を開けると、ミスミがベッドの上に寝転がっていた。床には空になったサイコソーダの缶が転がっている。
寛いでて、と言ったのは僕だけど、さすがにこれは遠慮がなさすぎる。2年ぶりの再会の第一声が「お前の本体(眼鏡)どこいったんだ!?」だったミスミに、遠慮なんてものを期待する方が間違いだけど。
ミスミは僕に気付くと、寝転んだまま片手を上げた。
「おー、チェレンおかえり。はやかったな」
「ただいま。君を待たせるのも悪いと思ったからね」
「そんな気を遣わなくても、適当に遊んで時間潰すさ」
「それが心配なんだよ。君は遊びで何しでかすかわからないから」
よくわかってるじゃねえか、とミスミはけらけら笑った。
わかっててやってるから質が悪い。いや、自覚がないのもあれだけど。
僕は空き缶をゴミ箱に捨て、カーペットの上に座った。
「そんなことより、ベルはまだ来てないの?」
時計は約束の時間の15分過ぎを示していた。でも、ベルの姿はどこにも見当たらない。
また遅刻かな?
「まだ来てないぜ。こういうとこは昔から変わらねえんだな」
ミスミは呆れた口調で言うと、おもむろに体を起こした。
「ほんと、2年ぶりにイッシュに帰ってきた時は浦島太郎状態でびっくりしたな。ベルは眼鏡かけてるし、Nは何故かいるし、ヒサメはイッシュの危機を救ってるし、チェレンの本体はどっかいくし」
「まだ言うか」
「けど、なんだかんだで変わってねえよな」
「君もね」
まあな、とミスミはにっと口角を上げた。
ふと、ばたばたと慌ただしい足音が聞こえてきた。
「やっと来たか」
「みたいだね」
ついと扉の方に目をやる。
「二人とも、おまたうわあ!?」
ばんと扉が開かれベルが現れたと思ったら、転んで床に突っ伏した。
ミスミがため息を吐いて、立ち上がった。僕も立ち上がって床に落ちた緑の帽子を拾い、ミスミに起こされたベルに被せる。
「大丈夫か?」
「鼻が赤くなってるけど」
「大丈夫!」
えへへ、とベルは鼻を押さえて笑った。
「昔と同じだねえ」
「昔っていつだよ。何回も繰り返してるぞ、このやりとり」
「そうだねえ。変わってないねえ」
ベルは僕らを見上げて笑った。
そうだね、と僕は苦笑した。
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