釣り日和
「なんで、お前らがここにいるんだ」
「釣りをしに」
波が打ち付ける岩場で釣竿を垂らしながら、ヒヅキはふてぶてしく答えた。
その隣で、わたしは付き添い、とハヅキが笑う。
「ここはオレが見つけた穴場なんだぞ。お前らは別の場所でやれよ」
「早い者勝ち」
「見つけたのは、オレの方が早い」
「ボクはアオイが見つけるずっと前から知ってた」
「なら、オレはお前がここを見つけたずっとずっと前から知ってた」
「じゃあ、ボクは」
「二人で仲良く釣りしたら?広いから問題ないでしょ」
平行線の口論にハヅキが割って入った。
二人同時にハヅキに視線をやる。ハヅキはにっこりと笑った。
その笑顔に熱が冷め、ヒヅキは波間を漂ううきに視線を戻し、アオイはヒヅキから少し離れたところで釣竿を振った。
「なあ、ヒヅキ」
「なに」
緩慢にヒヅキは振り向いた。
アオイが挑発的に口角を上げる。
「どっちがより大きいポケモンを釣れるか、勝負しようぜ」
「いいよ。負けないけど」
「じゃあ、わたしが審判するね」
アオイもヒヅキも異論は唱えなかった。ハヅキはブラコン気味ではあるが、こういう勝負では公正だ。
アオイとヒヅキは自分のうきをじっと見つめた。
波に流されていくうきは、自由気ままに漂っている。獲物の影が寄ってきたのは見えるが、警戒しているのか食らい付こうとはしない。
焦らず、ゆっくりとうきが沈むのを待つ。
やがて、獲物ではなくうき同士が互いに引き合うかのように近付いていった。
「おい、寄ってくんなよ」
アオイがうきから目を離してヒヅキを睨むと、ヒヅキも物言いたげな目で見てきた。
「なんだよ。なんか文句でもあるのか」
「アオイのうきが邪魔」
「そっちが寄ってきたんだろ!離れろ!」
「うるさい。ポケモンが逃げるだろ」
「ねえ、どっちのうきも反応してるよ」
ハヅキの声に二人は慌てうきに視線を戻した。
二つ同時にうきが沈む。
すぐさま二人は釣竿を引いた。だが、相手の抵抗が大きく、なかなか釣り上げられない。
「でかい!この勝負、オレが貰ったぜ!」
「それはどうかな」
ふいに、海面から何かがはね上がった。
飛沫をはね上げ現れたのは、赤い鱗のコイキングだった。だが、その大きさは尋常ではない。進化後のギャラドスと同じくらい巨大だ。
その口に二つの釣り針が刺さっていた。二つの釣り針はそれぞれアオイとヒヅキの釣竿に繋がっている。コイキングに引っ張られ、釣竿は二人の手からすり抜けていってしまった。だが、そんなことには気付かず、三人はあんぐりと口を開けて、巨大コイキングに見入っていた。
太陽の光を反射してきらきら光る飛沫を纏った巨大コイキングは、そのまま大空を駆け登っていきそうだ。だが、10メートルほどに達すると、重力に従って落下していった。
巨大コイキングが海に入っていくと飛沫が上がり、呆然としていた三人を頭から濡らした。
巨大コイキングは海の向こうへと泳いでいき、やがて影すらも見えなくなった。大きく揺れた海面が次第に穏やかになっていく。
突然、アオイが吹き出した。それから、堰を切ったようにヒヅキとハヅキも笑い出す。
「なんだよ、あれ!すっげえ!」
「あんな大きいコイキング初めて見た……」
「すごったね!ヌシかな!?」
「きっとそうだ!ヌシだヌシ!」
「コイキングのヌシ」
「カメラ持ってくればよかった!」
誰かがくしゃみをするまで、濡れていることなど忘れ、三人は笑い続けた。
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