優しい人と白い鳥
フスベジムのジムリーダーに勝ったオレは、ひとまずワカバタウンへ向かっていた。
あまり行きたくはないが、ポケモンリーグへはワカバタウンを経由しなければならないのだから仕方がない。

46番道路にさしかかった時、突然右のくさむらから白いポケモンが飛び出してきた。あれはトゲチックだ。
この辺りにはいないはずだが、まあいい。練習相手くらいにはなるだろ。

「オーダイル、“かみくだく”!」

オーダイルの牙が届く寸前、トゲチックは空を飛んで躱した。
ここからだと、攻撃が届かない。なら、相手が攻撃のために距離を詰めた一瞬を狙うか。

「オーダイル、相手が近付いてきたら“こおりのきば”だ」

オーダイルは頷き、構えた。その牙から冷気が発せられる。
空中で体勢を整えたトゲチックが急降下する。
オーダイルではなく、オレに向かって。

「なっ!?」

予想外の事態に反応出来なかったオレは、激突され後ろへ倒れた。

なんで、オレが攻撃されるんだ!

「ガルル」

「ちっくー!」

オーダイルがオレの上に乗っていたトゲチックを引き剥がし、ようやく体を起こすことが出来た。
引き剥がされたトゲチックはオーダイルの腕の中に大人しく抱かれている。
その姿に既視感を覚えた。
確か、あいつに会った時に似たような光景を見たような。

「お前、もしかしてユイのポケモンか?」

「ちっくちっく」

トゲチックは何度も頷いた。
本当らしい。戦闘にはほとんど出していなかったから、あまり記憶になかった。
辺りを見回すが、あいつの姿は見当たらない。
だとすると、

「はぐれたのか?」

「ちっくちっく」

また頷いた。
ポケモンを連れ歩いているなら、ちゃんと見とけよ。
たしか、ひこうタイプはこのトゲチックだけだったはずだから、そう遠くへは行ってないはずだ。

「この辺で待っていれば、いつかあいつが探しに来るだろ。行くぞ、オーダイル」

忠告だけして立ち去る。
あいつの連絡先なんて知らないし、オレは急いでいる。
だというのに、オレを引き止めようとするやつがいた。

「ちっくー!」

「なんなんだ、お前は!」

トゲチックが涙目でオレの服を引っ張る。
飛んでいるから重さはほとんどないものの、歩きづらくてたまらない。

「ちっく、ちくちっく!」

「まさか、一緒にいろと?」

「ちっく!」

トゲチックは大きく頷いた。
オレは嘆息し、オーダイルを睥睨した。

「オーダイル」

「ガル」

「ちっく!?」

オーダイルは先ほどと同じようにトゲチックを引き剥がした。
またオーダイルの腕に収まったトゲチックを見下ろす。

「オレはあいつのポケモンと馴れ合う気はない。ついてくるな」

ここまで言えば、流石についてくることはないだろ。
トゲチックに背を向けて、足早にその場を去る。
オーダイルが追いかけてきて、オレの横に並んだ。
後ろを確認するが、トゲチックは付いてきていない。
安堵したつかの間、気の抜けた腹の音が聞こえてきた。
オーダイルではない。もちろんオレでもない。
ということは……。
後ろを振り返ると、物欲しそうにこちらを見つめるトゲチックと目が合った。
だが、オレが何かをやる義理はない。
無視だ、無視。

「ちっくー」

無視。

「ちくちっく」

……無視。

「ちっくー……」

あー、もう!そんな寂しそうに泣くな!

「おい」

「ちっく?」

近付いて声をかけると、嬉しそうな瞳と目が合った。
バックからオレンの実を取り出し、トゲチックに差し出す。

なんでこんなことをしているんだ、オレ。

「こんなのでもいいなら食べろ」

「ちっく!」

トゲチックは満面の笑みを浮かべてオレンの実を受け取り、そのまま噛り付いた。
それを見ていたら、オレも腹が減ってきた。
時間も時間だし、飯にするか。

「オーダイル、飯にするぞ」

「ガル」

他のポケモン達も出してポケモンフードを与え、オレ自身も携帯食料を腹に収めた。
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