黄色いプレゼント
「あれ、ヒヅキ何読んでるの?」
「ポケモンの雑誌。昨日アオイがくれたんだ」
ヒヅキは視線を雑誌に向けたまま答えた。
そんなに雑誌に夢中になるなんて珍しい。いつもならわたしの方を向いて答えてくれるのに。
「わたしも見てもいい?」
「いいよ」
わたしはヒヅキの横からその雑誌を覗き込んだ。
その雑誌はポケモンの写真集らしくて、ピッピやプリンなどの可愛いポケモンがたくさん載っている。
ページを捲っていくと、ピカチュウ特集もやっていた。愛くるしい仕草のピカチュウは本当に可愛い。
「ピカチュウ、可愛いわね」
「うん」
同意したヒヅキの表情を見て、わたしはびっくりした。
ヒヅキが、今までに見たこともないくらい目を輝かせいてる。
そんなにピカチュウが気に入ったの!?
「ヒヅキ、ピカチュウ気に入ったの?」
「うん。トレーナーになったら欲しいな」
あの何事にも関心を持たないヒヅキが、そこまで思うなんて。
これは、お姉ちゃんとして叶えてあげないと。
でも、わたしもポケモン持ってないし、どうしよう。
……あっ、そうだ!
「ヒヅキ、ちょっとオーキド博士のところに行ってくるね!」
「そう。いってらっしゃい」
やっぱり、視線はピカチュウの写真に向けられたまま送り出される。
お姉ちゃん、ちょっと寂しいなぁ……。
******
研究所に着くと、わたしは一目散にオーキド博士の元へ駆け寄った。
「オーキド博士!」
「おお、ハヅキか。どうした?」
「お願いがあるんです」
「お願い?」
博士は怪訝そうな目をわたしに向けた。
そういえば、わたしがオーキド博士に頼み事をするのはこれが初めてかもしれない。
「ピカチュウを捕まえたいので、ポケモンを貸してください」
『お願い事』を伝えると、オーキド博士は渋面をつくり、腕を組んで唸った。
「うーむ、貸すのはかまわんのじゃが、ハヅキ一人でトキワの森に行くのは危険じゃしのう」
「大丈夫です。なんとかなります」
「しかしなぁ……」
やっぱり、無茶だったかなぁ……。
でも、絶対ヒヅキにピカチュウあげたいし。
「お願いします、博士!」
絶対に引き下がろうとしないわたしの気迫に負けたのか、オーキド博士は仕方ないなというように苦笑した。
「そうじゃのう。丁度急ぐ用もないし、わしも付いていこう。これなら安心じゃしの」
「ありがとうございます、オーキド博士!」
******
トキワの森から帰ると、すぐにヒヅキのところへ向かった。
ピカチュウは珍しいから、なかなか出てこなくて夕方までかかっちゃったけど、オーキド博士のアドバイスのおかげでなんとか捕まえられた。
ヒヅキ、喜んでくれるかな?
ヒヅキの部屋の前に立ち、ノックをしてから声をかけた。
「ヒヅキ、入っていい?」
「いいよ」
部屋に入ると、ヒヅキはゲームを片付けているところだった。
「ただいま。さっきまでゲームしてたの?」
「うん。アオイと一緒に。もう帰ったけど」
「残念。挨拶くらいはしたかったな」
なんだかんだ言いながら、ヒヅキとアオイって仲良しよね。
ちょっと羨ましい。
「ハヅキは、どこに行ってたの?」
「実はね、ヒヅキにプレゼントを用意したの」
「プレゼント?」
誕生日でもクリスマスでもないのにプレゼントを用意したのが不思議なのか、ヒヅキは首を傾げた。
まあ、普通は不思議がるわよね。
「どうしても、ヒヅキにあげたいものがあるのよ」
ヒヅキはますます訳がわからないと言うように眉根を寄せた。
わたしは構わず、ピカチュウの入ったモンスターボールを取り出し、ヒヅキの前に投げた。
「ぴかー」
「ピカチュウ?」
ヒヅキは出てきたピカチュウを見てきょとんとし、それから、どうしてと言うようにわたしを見た。
「オーキド博士に手伝って貰って、ゲットしてきたの。お姉ちゃんとしては、弟のちょっとした我が儘は叶えてあげたかったから。……もしかして、迷惑だった?」
不安になって訊くと、ヒヅキは首を横に降った。
それからピカチュウを抱き上げて、小さな笑みを浮かべてありがとうと言った。
「喜んでもらえてよかった。大切にしてあげてね」
「うん。よろしく、ピカチュウ」
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