偶然とかいらない
ダウジングマシンに導かれるままに登った丘。
そこで、最も会いたくない奴に会ってしまった。

「奇遇だね、こんなところで会うなんて」

「今度は何の用だよ」

今、オレは苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔をしていることだろう。
張り付けたような薄ら笑いを浮かべる顔を殴ってやりたい。

「今日会ったのは、本当に偶然だよ。計算では、会うのはもっと先の話だったのに」

「勝手にオレを計算式に組み込むな」

偶然というのが本当だとすると、神様はオレのことが大嫌いらしい。
まあ、用がないならこれ以上話す必要もない。
ダウジングマシンで隠れた道具を見付けて、さっさとここから離れよう。

「ところで、キミは何をしているんだい?」

無視。

「何か探しているようだけれど」

無視。

「手伝ってあげようか?」

無視。

「おーい」

無視。

「無視しないでよ」

「うぎゃあ!」

後ろから首を掴まれて、妙な叫び声を上げてしまった。
後ろを振り返れば、にっこりと笑うNの姿。

「やっと反応してくれたね」

「何すんだよ!」

「キミが無視するから」

「用がないなら、話すこともないだろ!」

「用はないけれど、キミと話してみたくなった」

「オレは話したくない!」

睨み付けてやるが、相手は意に介した様子がない。むしろ、オレの反応を楽しんでいる気さえする。
屈辱だ。
悔しさで唇を噛み締めていると、急にNが振り返った。

「どうした?」

「今、『助けて』って声が聞こえた」

「は?何も聞こえなかったぞ」

「ああ、キミには聞こえないだろうね」

オレには聞こえないってことは、ポケモンの声か。
ポケモンの声が聞こえるって、普通に考えたら信じられないことなのだが、Nは本当に聞こえるらしい。
Nがポケモンと話している光景を何度も見ているので、疑いようがない。

「あっちだ」

「あっ、待てよ」

走りだしたNを追いかける。
Nと一緒にいたくはなかったが、それ以上に助けを求めるポケモンが気がかりだった。
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