三年越しの再会
オレはハヅキに連行されて、タマムシデパートに来ていた。
誤解ないように言っておくが、ただの荷物持ちだ。
オレとハヅキはただ幼馴染みで、それ以上でもそれ以下でもない。
「アオイ、今度は三階いくよ」
「まだ買うのかよ」
すでにオレの両手は大量の荷物で塞がれている。これ以上は持てるはずない。
それでも無邪気に笑って、さらに荷物を持たせようとするこいつが、さながらギャラドスかバンギラスに見える。
最強のジムリーダーをここまで扱き使うのは、こいつの他にはじいさんと姉ちゃんくらいのもんだ。
「これで最後。今度何か奢ってあげるから、もう少しだけ付き合って」
「よーし、その言葉忘れんなよ」
こうなったら、うんと高い物奢らせてやる。そうじゃないと割に合わねえ。
三階の手芸売り場に入ると、ハヅキは毛糸玉を手に取った。
「なんか作るのか?」
「うん、マフラー編もうと思って。あっ、アオイにも編んであげよっか?」
「お前に作ってもらわなくても、マフラーくれる娘なんてたくさんいるからいい」
事実を述べると、ハヅキは軽蔑するかのような眼差しを寄越した。
「アオイ、いい加減一人に絞ったら?」
「オレが遊び人みたいに言うな。あっちが言い寄ってくるんだよ」
「まんざらでもないくせに」
ハヅキがぼそっと呟いた。
聞こえてないと思っているだろうが、ばっちり聞こえてる。
ハヅキは非難するけど、女に好意を寄せられて嫌がる男はそうそういない。
ああ、でも、あいつは嫌がりそうだな。困ると言ったほうが正しいかもしれない。なんたって、筋金入りの人見知りだし。
あいつの事を思い出して、なんだか懐かしい気持ちになった。
一体、どこで何やってんだか。
「そういや、お前、昔、ヒヅキにマフラー作ってたな。時間かかり過ぎて、出来た頃には春になってたけど」
「何年前の話よ!今はちゃんとはやく編めるわよ!」
馬鹿にされたと思ったのか−−実際したけど−−、ハヅキは目を剥いて声を張り上げた。
その声は辺りに響き、当然のように周りの注目を集めることになった。
「おい、ここ店内」
「あっ」
言われてようやく思い出したのか、ハヅキは耳まで真っ赤にして俯いた。
そのままじっと睨んでくる。
上目遣いになるからか、迫力がなく全く怖くない。
「もう、アオイのせいよ」
「お前が大声ださなきゃよかったんだろ」
「大声ださせたアオイが悪い」
どうしても、オレのせいにしたいのか。
ここで言い争っていてはさっきの二の舞だから、そういう事にしといてやる。
オレ、大人だし。
「はいはい、オレが悪かったよ」
「むー、心がこもってないけど、いいわ。はやく毛糸買って帰りたいし」
ハヅキは赤い毛糸玉を何個か持って、レジへ向かった。
意外だ。ハヅキだったら、青系統を選ぶと思ってた。
自分用じゃないのか?
じゃあ、誰に?
オレの他にハヅキがマフラーを送るような奴で、赤色。
普通に考えれば一人しかいないが、そいつは三年前から行方不明だ。マフラーなんて送れるはずない。
いや、でも、もしかしたら……。
「アオイ、これでもう全部だから、帰るよ」
会計を終えたハヅキがこっちに来る。
一応、訊いてみるか。
「ハヅキ、ヒヅキにマフラー作るのか?」
「うん、そうだよ」
「つまり、ヒヅキの居場所を知ってるってことか?」
「うん、そうじゃないとマフラーあげ………はっ」
自分の失言に気が付いたのか、ハヅキは慌てて口を押さえた。
だが、もう遅い。
「ア、アオイ……」
ハヅキが怯えた瞳でオレを見上げる。
だが、今は優しくしてやる気はない。
「お前からは、色々と聞く必要がありそうだな」
ひっ、とハヅキが息を呑む音が聞こえた。