優しい人と白い鳥
「……ン、テン!どこにいるの!」

食事もすんだ頃、遠くからユイの声が聞こえてきた。
だんだんとこちらに近付いてくる。
トゲチックにも聞こえたようで、返事をするように大声で鳴いた。

「テン!」

草むらを掻き分けて、ユイが出てきた。
ユイに向かってトゲチックが飛んでいく。ユイはトゲチックを安堵の表情で抱き締めた。

「無事でよかったー。心配したんだからね」

「ちくちっく」

ユイが来たから、もう行くか。
気付かれないうちに立ち去らないと、絶対に何か言い掛かりをつけられそうだからな。

「あれ、カナデ?」

何故よりによって今気付く。
まあいい。無視だ。
はやくここから離れたくて早足で歩くと、

「無視しないでよ」

「ぐはっ!」

襟を捕んで引き留められた。
窒息させる気かこの女。

「無視するなんて酷いじゃない!」

「……わかったから、離せ」

「あっ、ごめん」

ぱっと手を離され、ようやく圧迫感から解放される。
無視できる状況ではなくなり、仕方なくユイの方に向き直った。

「で、何の用だ」

「もしかして、カナデがこの子と一緒にいてくれたの?」

「たまたまだ。誤解がないように言っておくが、オレが盗んだわけじゃないからな」

「そんな心配はしてないって」

半ば呆れ顔で言われる。
意外だ。絶対に何か文句をつけられる思っていたのだが。

ユイは抱き締めているトゲチックをしげしげと見つめ、少し驚いた様子でオレに目を向けた。

「なんだよ」

「いや、テン、元気そうだなと思って」

むしろ元気すぎる。
へらへらと笑うトゲチックを見下ろすと、視線に気付いたのかこちらを見てさらに笑みを深くした。
能天気なやつだ。

「カナデ、意外と優しいんだね」

はっと顔を上げると、ユイが笑いかけてきた。
思わず顔を背ける。
なんでだ、直視できない。顔も熱い。

「な、何言ってやがる!オレがそんなに甘いわけないだろ!」

そう言い放つのに、横目で見たユイは相変わらず笑っている。
なんで笑ってんだよ。いつもなら、なんか言い返してくるくせに。

「もういい!オレは行く!」

「テンと一緒にいてくれてありがとう。またね!」

「ちっくー」

背中に投げ掛けられた言葉に、また顔が熱くなる。
どうしたんだ、落ち着け、オレ!
prev * 2/2 * next
- ナノ -