汗を流すために入った川の水は冷たく、日差しに照らされ火照った身体には心地が良かった。金色の髪からも雫を滴らせながら、ギルガメッシュは息をつく。
隣に目を移すと、水草のように緑の髪が水面に浮かんで揺れていた。魚まで騙されているのか、緩やかな流れに揺蕩う緑に戯れている。なんとはなしに指をくぐらせてみると、水面からエルキドゥが顔を出した。

「なに?」

「随分と長く潜っておったが、魚とでも話していたのか?」

「うん、特に変わったことはないらしい。今季も大漁だと思うよ」

水音を立てながら、ゆっくりとエルキドゥは立ち上がった。
聖娼を模したという顔は少女めいていたが、幼さを残しているおかげで少年と言われても納得がいく。濡れた髪が纏わりついたしなやかな手足は引き締まっており、これから成長を迎えようとする少年のものに見えるが、線の細さと白く滑らかな肌に未成熟な少女を感じた。
何度見ても男なのか女なのか判別のつかない顔と身体だ。男だろうが女だろうが、人だろうが土塊だろうが友は友のため、今更気にすることでもなかったが、ふと好奇心からさらに視線を下げ、ギルガメッシュは片眉を上げた。

「どちらもついておらぬのだな」

「兵器に生殖機能は必要ないからね。最初はシャムハトの姿をすべて真似ていたから、性器や胸もあったけれど」

不躾な視線を気に留めることなく、エルキドゥは淡々と事実を答えた。

「必要と言うのなら、またつけるよ?」

「たわけ、間に合っておるわ」

「だろうね」

エルキドゥは肩を竦めた。
特定の后や寵姫こそいないが、王の手つきとなった女官はそれこそ山のようにいる。これでも初夜権を行使していた頃よりはましになっているし、合意の上でのことなので呆れはしても諫めはしないが。

「兵器に無用なものを削ぎ落としたり、君の身体を参考にしたりして、今の基本形態になったんだ」

「我の身体を模した割には、随分と貧相ではないか」

「だから、あくまで参考だよ。完全に似せたら、シャムハトにその顔で青年の身体になるのはやめてほしいと言われたから」

確かに似合わなかったけれど、とエルキドゥはくすくすと笑う。
人としての理性と智慧を授けた聖娼への敬意と兵器としての機能性。その二つを突き詰めた姿を改めて興味深そうに眺め、ギルガメッシュはふいにエルキドゥの左胸に掌を置いた。緑の瞳が不思議そうに見上げてくる。女ほど柔らかくもなく、男ほど硬くもない胸の奥で、鼓動が乱れることなく規則的に刻まれいた。

「心臓はあるのか」

「動力源が必要なのは人も兵器も変わらないよ」

「人と兵器を並べるなど、お前にしては不遜なことを言う」

「そういうつもりはなかったのだけれど」

エルキドゥは苦笑すると、倣うようにギルガメッシュの左胸に掌を置いた。その下で心臓が力強く脈打っている。彼の魂の輝きと同じだ。苛烈で眩い、王たるものの命の証だ。

「君は鼓動まで強いのだね」

「当然であろう」

ギルガメッシュは傲岸に笑う。
エルキドゥは目を細め、彼の心臓の上に置いた手にわずかに力を籠めた。

「真似したくても、真似できるものではなさそうだ」
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