故郷を歩く
玄関から出ると同時に、庭先にいたマメパトが一斉に飛び立った。
帽子のつばの先に落ちた白の混じる灰色の羽を摘まむ。フードの中に入ったツタージャのタージャにふわふわのそれを見せると、ふっとすげなく吹き飛ばされた。

「ひっでえ」

首を巡らせて、先に外に出ていたチェレンとベルの姿を探す。はやくはやくー、とまのびした声のする方を見遣ると、ベルとチェレンが右手の道の先で手招いていた。
2人のところまで行くと、なだらかな坂が続く先に、赤い屋根が小さく見える。オレたちにポケモンをくれたアララギ博士の研究所だ。

「それじゃ、研究所に行くか」

「ミスミ、待って!」

足を踏み出すと同時に腕を引かれ、バランスを崩す。一緒に体勢を崩したタージャが後頭部にぶつかった。
なんとか踏ん張り、倒れかけた身体を起こした。振り返り、腕を掴むベルの手を外す。

「ベル、急に引っ張んな!危ねえだろうが!」

「あうう、ごめんね」

ベルがしゅんと顔を俯かせた。それに怒りが冷め、気を付けろよとだけ言って丸い頭をぽんぽんと軽く叩く。
どうも、オレはベルに甘いらしい。

「それで、どうしたの?」

チェレンが訊くと、ベルはぱっと顔を明るくさせた。

「あのね、研究所に行く前に、この子たちにカノコを案内してあげたいなって」

ベルはミジュマルを抱き上げた。ミジュマルは真面目そうな顔に期待を浮かべている。
チェレンの足元でも、ポカブが物珍しそうにきょろきょろと忙しなく首を動かしていた。

アララギ博士から貰った3匹は、カノコ以外の街で生まれ育ったと聞いている。
オレたちにとっては見慣れた風景でも、こいつらにとっては物珍しいのかもしれない。

「悪くはないな」

「そうだね。でも、先にアララギ博士にお礼をしないと」

チェレンが軽く叱る口調で言う。

「でも、研究所は1番道路の近くでしょ?結構遠いし、研究所に行ってから案内したら、大変じゃないかなあ。それに、アララギ博士なら遅くなっても、きっと許してくれるよ」

それもそうだな、とベルの意見に頷く。
時間の指定があるわけではないから、アララギ博士も笑って許してくれるだろう。
博士というとお堅いイメージだが、アララギ博士は若いからか――といっても、母さんとそう変わらないけど――、かなりフランクな人だ。
だが、チェレンはまだ難色を示していた。

「そうは言っても、博士に失礼なことはできないよ」

「チェレン、堅いことばっか言うなよ。アララギ博士もポケモンと仲良くって言ってただろ」

ほら、とチェレンの顔を掴んで、無理矢理ポカブとミジュマルの方を向けさせる。
2匹は期待で瞳を輝かせていた。
ポカブとミジュマルの無垢な目に見上げられ、チェレンがたじろぐ。

さらに、

「ね、いいでしょ?」

上目遣いのベルのダメおし。
それがとどめになったのか、チェレンは諦めに似たため息を吐いた。

「わかったよ。あまり時間はとれないけど、ポカブたちを案内しよう」

「やったー!チェレン、ありがとう!」

ベルと一緒になって、ポカブとミジュマルもはしゃいだ声を上げる。
そんな1人と2匹を見るチェレンの眼差しは、子を見守る親のように穏やかだ。

「お前、ほんとベルに弱いよな」

「君も大概だろ」
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