千年の
「淡い夢を見ていたそうだよ」

優雅な足取りでオレたちを先導するキュウコンを見つめて、Nが言った。
キュウコンにも聞こえたらしく、ちらと振り返りはしたが、九つの尾をふわりと揺らしただけで、すぐにまた前を向いて苔藻を踏み鳴らした。木漏れ日が白い毛を撫でていく。若いキュウコンと比べると光沢は失われていたが、それゆえに言い知れぬ荘厳さがあった。2週間前に同じ場所で死の淵をさ迷っていたとは思えない。保護した時は酷い傷を負っていて、一時は本当にもうだめかと思ったのに。

「カノジョは死の淵で大切なヒトに会ったらしい」

「それって、この先で眠ってるやつ?」

Nは頷いた。
この森の奥には、大昔の墓がある。あのキュウコンはずっとそこに棲んでいて、この辺の人たちからは墓守と呼ばれているのだと、駆け込んだポケモンセンターのドクターが教えてくれた。

「迎えにでもきたのか」

「逆だよ。まだこっちにきてはいけない、と追い返されたんだ」

「へえ」

「次に会うのは1000年後の約束だったのに破ってしまった、とカノジョは笑って言っていたよ」

ドクターの話では900歳を越えるか越えないかくらいだそうだから、100年ほどフライングしかけたことになる。
ただの人間のオレからすれば、ずいぶんと気の長い約束だ。1000年を生きるキュウコンにとっても、やっぱり長い時間なんだろうか。

そんなことを話しているうちに、件の墓が見えた。石造りのそれは小さいが、よく手入れされていて、900年前のものにはとても見えない。墓石に彫られた名前は雨風に曝されて流石に読みづらくなっているが――そもそも古代の文字だからオレには読めない――近くの岩のように苔むしてはなく、よく磨かれて滑らかな質感を保っていた。
ずっと、キュウコンが大切に守っていたんだろうな。

キュウコンは途中で摘んだ花を墓に供え、緋色の目を静かに閉じた。囁くような鳴き声が、優しく空気を震わせる。
キュウコンがなにを話しているのか、オレにはわからない。Nに訊いたら教えてくれるだろうが、なんとなくそれは野暮な気がした。きっと、それは恋だろうから。


ミスミとNを書く天城さんには「淡い夢を見ていた」で始まり、「きっとそれは恋」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば2ツイート(280字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり
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診断で遊んでいたら一番どうしていいかわからない結果がでたので、よっしゃその挑戦受けてやると謎のテンションで書いてみました。
文字数は無視です。
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