実のない花
「さて、ここからは別行動になるけど、道はわかるよね?」

チェレンは主にベルに向かって言った。
1番道路は一本道だから迷う心配はないはずだが、昔、ベルは野生のポケモンを追い掛けて道を外れ、川に落ちたことがある。14歳にもなって同じ過ちを犯すとは思えないが、チェレンは過保護だから心配なんだろう。

「小さい子じゃないんだから、大丈夫だよ。そんなことより、いいこと思いついたんだけど」

「さあ、行こうか」

「そうだな。1番道路のポケモンも捕まえたいし、ぐずぐずしてたら日が暮れる」

「ちゃんと聞いてよ! なんなのよお、もう!」

ベルは頬を膨らませた。
オレとチェレンは顔を見合わせ、ため息を吐いた。

「はいはい、ごめんよ。で、何を思いついたの?」

「カラクサタウンに着くまでに、誰が一番ポケモンを捕まえられるか競争しようよ」

珍しい。まともな提案だ。

「おもしろそうだな」

「図鑑も埋まるし、いい考えだね」

「でしょ!」

ベルは得意気に胸を反らせた。
少し話し合った結果、2時間後の13時にカラクサタウンのポケモンセンター前に集合することになった。
昼食は各自取ること、何かあったらライブキャスターで必ず連絡すること、とチェレンは口酸っぱく言った。
お前は心配性の母親か、とツッコミを入れ、オレは二人と別れた。


******


オレはさっそく道を外れ、小さな森に入った。
この森は、大人に内緒でこっそり遊び場にしていたところだ。海が近いため、草木の匂いに混じって潮の匂いがする。

「さて、この辺でいいかな」

首を傾げるタージャに一応耳塞いでおけよ、と言い置いて、オレは親指と人差し指でつくった輪に思いっきり息を吹き入れた。
甲高い音が森の中に響き渡る。
驚いたマメパトの群れが一斉に羽ばたいた。騒々しい鳴き声と羽音が過ぎ去った後、一瞬の静寂が訪れ、茂みからヨーテリーが飛び出した。

「リク!」

名前を呼べば、そのヨーテリーはまっすぐオレのところに来た。
オレはしゃがみ、リクの頭を撫でた。

「約束通り迎えに来たぞ」

「きゃん!」

リクはしっぽを振りながら甲高い声で吠えた。
と、タージャがオレの頭を小突いた。振り返ると、タージャはリクを指した。

「ああ、紹介するの忘れてた。こいつはこの辺に住んでる野生のヨーテリーで、友達のリク。一緒に旅する約束してたから迎えに来たんだよ」

タージャはフードから降り、リクに歩み寄った。リクはびくっと飛び上がり、慌ててオレの後ろに隠れた。
タージャはじとーとオレを見上げた。

「リクは人見知り、いや、この場合ポケ見知り? なんだよ」

オレもリクと友達になるまで苦労したもんだ。
オレは肩越しに振り返った。

「リク、こいつは一緒に旅をする仲間のタージャだ。怖い奴じゃないから、そう怯えるなよ」

リクは恐る恐るオレの後ろから出てきた。けれど、タージャが手を差し出すと、また怯えて後ろに引っ込んでしまった。
気に障ったのか、タージャはリクを睨み付けた。リクがさらに怯える。

「慣れたら仲良くなれると思うから、辛抱してくれ」

人間関係ならぬポケモン関係は、少々前途多難のようだ。
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