屋上でお昼なぅ。
ツイッターをやっていたのならば真っ先に呟くだろう。
とりあえず、今は現実逃避がしたいです。
「俺は幸村精市。よろしくね」
よろしくしたくないです。帰りたいです、教室に。
「さて、俺が自己紹介したんだから皆もしてよね」
ニコニコしている幸村先輩に苦笑いしか返せない部員達。
いや、もう…可哀想になってくる…。
『あの、すでに知っている人のも聞かなきゃダメですか?』
「ん?知ってる人いるの?」
います。いないみたいに言わないで下さい。
なんですか、幸村先輩の中の私って無知みたいになってるじゃないですか。
『風紀委員の二人と柳先輩と切原と仁王先輩なら聞きました』
「俺、お前さんに名前言ったかの?」
『柳生先輩が言ってました』
「ほぉ」
仁王先輩は納得したようだ。よかったよかった。
これ以上絡まれたらどうしようかと…。
「ってことは俺とジャッカルがまだだぜぃ」
「そうだね、じゃあ弁当食べながらでも話そうか」
幸村先輩がそう言うと皆各自の弁当を広げ、食べ始める。
私も食べよう。
「俺、丸井ブン太。シクヨロ!」
「ジャッカル桑原だ。好きなように呼んでくれ」
『椎名真琴です。よろしくお願いします』
ここで一つ疑問がでるわけだ。
何故私はテニス部と一緒に昼ごはんを食べているのだろうか、と。
「実は柳生に頼んで君を呼んだのは用があったからなんだ」
用が無く呼ばれたのであれば即行で帰りますよ。
『用、とは?』
「君は赤也とも真田も柳生とも仲が良いそうじゃないか」
『訂正してください』
「どこを?」
『切原と話したのは昨日で三回です。仲が良いとは言えません』
「へぇ」
視界の端で切原があからさまにショックを受けた姿が入ったが気にしてられない。
目の前の幸村先輩で精一杯だ。
「真田と柳生は訂正しなくていいのかい?」
『私は柳生先輩と真田先輩と仲が良いと思っていますので』
事実、柳生先輩とは本の話をして真田先輩とは将棋の話などをしたりした。
二人が私をどう思っていようが私は二人と仲が良いと思っている。
「赤也からは君の話をよく聞くんだけどねぇ」
幸村先輩はショックを受けてうなだれている切原をチラッと見た。
私もその視線の先を見てみる。
切原は桑原先輩と丸井先輩に慰められて仁王先輩に追い討ちかけられていた。
『どういった話をしていたのか詳しく聞きたいんですけど』
「ふふっ、ちょっと無理かな」
ですよねー、だと思った。
だから聞かない。もう気にしない。
『ところで、話がずれましたが用と言うのは?』
「あぁ、そうそう」
忘れてたのかよ。
「テニス部の『嫌です』…まだ言ってないんだけどなぁ」
まだだ。まだニコニコしてる…。
本当、強いよ。幸村精市。
『テニス部に関わるつもりはなかったんです。もちろんこれからも関わる気はありませんが』
そういうとその場にいたテニス部全員の視線がこちらに向いた。
私は弁当に入っていた最後の玉子焼きを口の中に放りこんだ。
「私は私のままでいる」(それがもし彼の思惑通りだったとしても)
(面白いね、椎名真琴)