中学二年に上がったばかりの春。
大きな桜の木下で、私は読書をしていた。
いつも通り。そう思っていた。
「なんじゃ、先客がおったんか」
その人は銀色の髪をしていて、口元にほくろがあって。
そして、
「誰じゃ、お前さん」
私があまり好きではない人。
いや、言い方を変えよう。関わりたくない人。
『ここ、使うんですか?』
「おん、寝る」
『そうですか、では』
私は本を閉じて立ち上がり、場所を譲った。
なんて優しいんだろうか、と一人心の中で言いながら顔には出さずその場を去ろうとした。
そう、私は去ろうとしたんだ。なのに…
『なんですか』
なんで腕を掴んだんだよ、銀色さん。
「お前さん、名前は?」
『はい?』
「名前」
『…椎名真琴です』
偽名を作って言おうか一瞬考えたが、詐欺師と言われているコイツには通じないだろう。
そう思ってちゃんと本名を名乗った。
「椎名…真琴…か」
何故復唱したんだ、この人は。
『あの、離して下さい』
早く去りたい。貴方とこれ以上一緒に居たくない。
だから、早く離して下さい。おねがいします。
「おぉ、すまんのぅ」
『いえ、…では』
そう言って、私は図書室へ目指した。
「はじめまして」(早く図書室に行こう)
(あの子が赤也の言ってた子かの…)