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※捏造設定あり



MMORPG【THE WORLD】による一連の事件が収まり、運営を再開した後。
俺、岡野智彦こと【バルドル】は、ただいま戦意喪失中だ。
光の神なんてたいそうな名前をつけておいて・・・といわれてもしょうがない。
その原因はもちろん、そう。

幼馴染のそらに振られたばかりだからだ。

表面上は普通に接していても、やっぱりふと何もしないでいると思い出してしまう。
今日も皆でダンジョン攻略に行こうという話になっていたが、気乗りしなかった。
だめだな、俺。早くいつもの俺に戻らなくては。

「はぁー・・・。」

「どうかしたの?剣士さん。」

俺が広場から少し離れた、人気の少ない草原に座っていると、隣に俺と対称的な真っ黒な装備の女性キャラクターがいた。
彼女はどうやら巷で有名な『美人【銃戦士(ガンナー)】』。唯の美人だけだったらキャラクターを作るだけでいいのだが、彼女の場合ガンナーの中では今のところ最高レベルの96を誇っているのだ。
誰にでも気辺りが良く、だけれどめったに名前を表示しないミステリアスなところが人気の由来のようだ。

「隣、いいかしら。」

「ああ、どうぞ。」

ゆっくりとした動作で隣に腰掛けるガンナーを見て、キャラクターの性別を選べるこの世界でもこの人はリアルで女だと思えた。
じっと見すぎていたのか、ちらりとこちらを向き何、と声をかけられてあわてて視線を外す。

「お悩みならお姉さんが聞いてあげるわよ?」

「え・・・っ、いや、でもいいッスよ。
聞いてもらうほどの悩みじゃないですし。」

よくよく考えてみれば、ここはゲーム空間。
歳の差なんて気にしなくていいところなのに、なぜかこの人には敬語を使ってしまう。感じないはずなのに、そういう「雰囲気」をまとった人だ。

「んー・・・。
じゃ、私と一緒にダンジョン行きましょう。」

「え?ちょ、ちょっと・・・!!」

彼女は立ち上がったと思えば俺の手を引き、有無も言わさずダンジョンへと向かっていった。







・・・―――





「・・・って、ここ・・・迷宮区ダンジョンじゃないですか!!
ちょ、帰り道わかんないッスよ俺!」

「あっはっは、私も分からないわ。」

「えーっ!どうする・・・」

どうするんですか、その一言を言い切る前に言葉が止まってしまった。
その人の俺を見る顔が、あまりにも無邪気で、楽しそうだったから。
全力でこの世界を楽しんでいる、心からこの世界を、愛している目。

―――不覚にも、いままでみたどんな人の表情より・・・綺麗だ、と思った。

「ここは迷宮区。帰り方を探すより、楽しまなくちゃ。
それに、私はこれでも名の通る【銃戦士】よ?バルドル君。」

「・・・!俺の名前知って・・・。
―――はい、どうせだから、楽しみます。」

「そうこなくっちゃ!
私のことは・・・そうだな、お姉さんでいいよ♪」

そういって黒い髪を揺らしながら堂々と進んでいくその後姿には、どこか無邪気にはしゃぐ子供のようなものがあった。
それをみて、気づけば”いつもの”俺が戻ってきた。そうだ、楽しまなきゃ意味ないよな。



*



「フッ!
・・・、今よ、バルドル君。」

「はあああああッ!!」

姉さんの後部支援で出来た隙を突いて高速連続斬り、その後必殺技を2段クリテカルヒットで15000まで繰り出した俺は、直後に起こる硬直に身をゆだねながら何とか後方まで下がる。
そして俺が攻撃している間に愛用のライフルをフルチャージした姉さんはそれを迷宮区の主にぶっ放した。

「いっけえええええ!!」

幾千ものライトエフェクトを撒き散らし、やがて静かに倒れた主は光の粒子となって消滅していった。

「・・・・、かっ・・・たのか?」

「ええ、勝ったみたいね。
・・・おめでとう、バルドル君。ここまで付いてきてくれてありがとう。」

そういって、反動で起き上がることが出来ない姉さんはそっと手を差し伸べてきた。
俺は反射的にその手をとると、立ち上がって姉さんを引き上げた。

「っと。俺のほうこそ、ありがとうございました。
おかげで悩みも少し吹っ切れました。」

たとえ振られても、俺とそらが幼馴染で、友達なのは変わらないんだ。
こうして一緒に戦えばギクシャクした感じもすぐになくなってしまう。俺はいま、とてもすがすがしい気持ちだった。

「ふふ、いえいえ。
私もレベルが1上がったし、お互い様よ。」

「はは、それを言うなら俺もこの3時間だけで2レベ上がりました。
姉さんがいなかったらこんな難しいダンジョンは入れなかったし、楽しかったです。」

結局帰るどころか一番奥まで来ちゃったしね、と笑う姉さんに鼓動が波打つ。
・・・なんだこれ、と考えている間に姉さんはさっさと奥の部屋の宝をとりに行くべく歩いて行ってしまったので、急いで後を追いかけた。


「はぁーっ!
バルドル君!みてみてこれっ!」

「ん・・・うわっ!
こんなに大金・・・それにこれ、S級素材じゃないですか!」

「ん〜ッ!
これは伝(つて)に高く売り捌くか、これでこの子を強化するっきゃないわねぇ・・・。
いや、これで二刀流・・・二銃流にするもの悪くない・・・。
・・・あ、大丈夫。4つあるんだから、ちゃんと平等に2つずつで山分けね。」


そんな弁解のような言い方をする姉さんを見て、頬が緩むのを感じた。
俺は、・・・この気持ちに気づいてしまった。
リアルで顔も知らないようなヤツを好きになるヤツの気持ちが分からない、なんて思ってたけど、分かってしまった。
たとえ、ゲームでも・・・動かしている俺らはどうしようもなくリアルなんだ。

「・・・姉さん。」

「うん?なにかなバルドル君。」

唾を飲みこむ。
そらに想いを伝えるときよりも緊張しているかもしれない。
一言、一言言うだけでいいんだ、俺。
顔だけをこちらに向ける姉さんにその一言を発する。

「姉さんの、キャラネームを教えてください。」

「・・・・・・。

私のキャラネームは、本当に心の許せた人にしか教えないようにしているんだ。」


その一言が、体中を凍りつかせた。
今すぐログアウトしたい気持ちにならなかったのは、姉さんがはっきりと自分の気持ちを伝えてくれたからなのかもしれない。

「そう、ですか。
そうですよね、俺なんかに教えてくれるわけ・・・」

「・・・でもね。」



「バルドル君は、条件合格です。」



「・・・!
じゃあ・・・」


「ふふ、私のキャラネームは・・・――」







恋に落ちる音がした。
(光の神に光を照らすのは)(優しい黒)




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あまり需要があるとは思えませんが、映画「ドットハック 世界の向こうに」のお話。
完全自己満足です。バルドル君がかっこよすぎました。不憫だけど。
まだ見ていない人は是非…!!