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「棗君。」

「別れよう?」

「――沙羅。」

私はもう一度彼の背中に腕を回して、小さくそう呟いた。
もう、お互いに限界だったのだ。
こんな関係を続けていても、お互い苦しいだけだ。

「…なあ、沙羅。
俺、お前のことが好きだったぜ。」

「うん、私も。好きだよ。」

お互いにその声は震えていて。
彼は空を向いていた。私は彼の背中で押し殺していた。
これが別れの挨拶になるのは、あまりにもこころぐるしい。

「なんで、うまくいかないんだろうな。」

「うまくいかないねぇ…?」

ついにこぼれ落ちた涙とともに、苦しい感情が溢れ出す。
ああ、こんなにも彼が好きなのに。
世界は無情だ。永久を誓い合えるようにはできていないのだ。

いっそ時が止まればいい、幾度そう願ったか。

「――また来世、会おうな。」

「……うん、また来世。」

もう、棗君が私の涙を拭うことはない。

もう、棗君が私の頭を撫でることはない。

もう、棗君が私の名前を呼ぶこともない。

もう、私が棗君の隣を歩くことはない。

もう、私は棗君の姿を見て焦がれることはない。

もう、握り締めたそのてのひらを、握り返すことは、ない。

「……っく、なつめ、くん…!!」

「なあ、なんだよ…泣くなよ、xxx」

「なつめくん、なxxくん!!」

「なんで…なんで、姿が見えないんだよ…xxx!!」

「xxxくん…っ!!」

あ…れ、…私、誰を呼んでいたんだっけ。
こんなにも想いが溢れ出すのに、焦がれた人の名を思い出すことはない。
ただその人との思い出だけが、息を吸うたび、目を見張るたび、その名を口に出そうとするたびにこぼれていく。

ああ、だめ

私からその人を奪わないで。

もう、何故私が泣いていたのかも思い出せない。


白く霞む視界で、泣きながらも必死に誰かを探すその人に、私は懸命に手を伸ばしていた。



(願いは)(届くだろうか)