「―――ね、聞いた?最近入った訓練生の話」
「あー、ペーパーテスト満点の超秀才でしょ?」
「そうそう!魔術のテストもかなりレベル高かったらしいよ。
もうすぐにあたしらなんて追い抜いちゃうんじゃないかな」
「しかも武術テストなんてもっとすごいよね、武官から一本とったって!!
もう候補生なんてすぐだよ!」
「でもどうせ武官の方が手加減したんじゃないの?」
「それが違うみたいなの。あ、ただ・・・武術のテストだけは次席なんだって。」
「バケモノ並みのオールマイティーに誰が勝ったのさ。」
「あ、私ちらっと見たよ。すっごいカッコイイ人!」
「「へー・・・」」
聞こえないフリをしても、結局聞こえているその噂話は、地味に私に刺さる。
次席で悪かったな次席で!
―――ここは魔導院ペリシティリウム朱雀。
魔術、武術による実技とペーパーテスト、によって晴れて合格した者は、アギト候補生・・・後にはアギトになるべく、訓練生として魔導院へ迎え入れられる。
完全実力主義のこの学院には、20前後までのさまざまな年齢・性格・境遇の生徒たちが学んでいる。
そして定期的に優秀な訓練生を宿舎に入れる今回の試験。
訓練生の数は年々増え、さらに候補生になれない人も増加しているので宿舎に入れるのは今や訓練生でも成績が優秀なものだけとなった。
「新訓練生、初めましてだな。私が訓練生の総責任者、アスナだ。
諸君らは候補生に、アギトになるべく勉学に慎みたまえ。
また、今年から実施されることとなったペア制度だが・・・
指定された席に座っているとは思うが、今隣に居る者とペアを組んでもらう。
3ヶ月に一度の試験でペアを変えていくが、それまではペアの変更はなしだ。
お互いパートナーとして、良き絆を築いてくれ。利害一致したのならペア変更はしない。
まあもっとも、どうして嫌なら早く候補生になる他ないな。
パートナーを生かすも殺すも諸君ら次第だ。1年後の昇格試験、期待している。」
各自挨拶をしておくようにという言葉を残して臨時の教室から出たアスナ武官に、雰囲気が浮き足立つ。
そして、私の隣は・・・
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・シノ・ミスキであったな。
クラサメ・スサヤだ、以後よろしく頼む。」
そういって右手を差し出される。
不覚にも武術の実技テスト主席、クラサメ・スサヤであった。
私はあのときの敗北をまだ根に持っている。
「クラサメ・スサヤ。
私は候補生になるまでに武術で貴方に勝利してみせます。
覚悟していなさい!」
右手を取り、まっすぐ彼を見据える。
彼は少し驚いたように眼を瞬かせて、その後静かに笑って握る手に力を込めた。
「ああ。挑戦、いつでも待っているぞ。
だが、あれはお前のしんちょ・・・」
「何か言ったかしら?」
「いや・・・。」
「では、明日からよろしくお願いします。」
私はやんわりと手を離し扉の方へ。
これ以上言葉は不要、そう行動で示す。
パートナーは女の子かなと期待した私はよりにもよって武術テスト主席クラサメ・スサヤだなんて、ツイてない。
―――
―――――・・・・
「・・・・――へぇ・・・。」
今日からお世話になる候補生の宿舎。
一週間前までは近くに家などなく、村も蒼龍との国境沿いにあるので泣く泣く魔導院付近の宿に泊まっていた。。
候補生のテスト主席者3人は奨学金制度があり、宿舎に寝泊りや朝晩ご飯も付いてくるのにロハと言う優遇。
・・・そのかわり主席を取り続けなくてはいけないのだが。
さらに、候補生に上がれれば国側が全額負担。将来も約束されている。
宿舎の外観は広い。これから1年、一室2人の生活が始まる。
ルームメイトとは仲良くなれるだろうか。
コンコン、
ドアを叩いて見ると、しばらくしたら足音が聞こえた。
もうルームメイトさんはご到着のようだ。
「初めまして、シノ・ミスキです。
これから一年間、よろしくお願いします!」
ドアが開いた瞬間お辞儀をし、挨拶する。
ちらりと見た相手の足元は、女の子にしてはガタイが良かった。
そしてズボン・・・ズボン?
急いで顔を上げるとそこには・・・
「・・・・・・。」
「へ?」
「シノ・ミスキ。
お前、ここの部屋なのか?」
「クラサメ・スサヤ。何故あなたかここに。
ここ・・・217号室よね?ここだわ。」
「混乱しているところすまないが、
俺もこの部屋だ。」
「え、?」
その日、候補生宿舎中にシノの悲鳴が響き渡った。
A butterfly proclamation of war.
(そして)(歯車が回りだす)
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てなわけで、出会い編。読んでくださってありがとうございます。
クラサメさんが学生時代までは一人称俺だったら私だけが得します。