FF零式 | ナノ

―――意識が浮上していく。
眼を開けるとそこは、人気のない魔導院の裏だった。
先ほどまで墓地にいた。軍令部第二作戦課へと足を運んだところまでは記憶があるが、その先が思い出せない。
どういった経緯でここにいるのか、なぜここに座り込んでいるのか。

「・・・・・・・・・。ここは・・・」

「あ、眼、覚めましたか?クラサメ隊長。
ここの場所で気を失っていたものですから、心配しました。」

ふと声のするほうへ視線を向けると、私の隣にしゃがみこんで心配そうに視線を向ける人物がいた。
容姿が良く、誰とでも分け隔てなく接することで誰からも信頼を得ている・・・

「医療課の、シノ・ミスキであったな。
心配をかけた。しかし、ここに来るまでの経過が思い出せない。」

知っているだろうか、何か間違いを起こしていないだろうかと聞こうと思った最中、
彼女は静かに口をひらいた。

「・・・・・・あなたは、なぜ、泣いているのですか?」


その言葉で、自分が今涙を流している事に気が付く。
拭ってみるがそれは後からとめどなくあふれ続け、自分にはどうしようもなかった。
ひとつ確かなのは、この大きな喪失感だけ。

「・・・・・・わからない。なぜか止まらない。
分からないが、胸に大きな穴が開いたような気になる。」


それはまるで、

「何か大事なものを・・・失った気分だ。」




彼女は静かに眼を伏せ、次に眼を開けたとき・・・愛しむようにこちらを見る。

「"クラサメ"、あなたに・・・・・クリスタルの、加護あれ。」

ドク・・ン

自分は何か大切なことを忘れている。
必ず思い出さなければいけない・・・・・・はたして何を?

必死に答えを試行錯誤しいていると、視界の端の人物が立ち上がるのが分かった。
顔を上げたその顔は先ほどのものではなく、他人のような反応をする。

「無事なようですね、安心しました。
では私はこれで。何かあれば医療課へどうぞ。」

「・・・・・・・・・。」

自然な足取りで去っていくその後姿をしばらく眺めていた。





























「刻々と時が来た」

美貌と膨大な記憶、幾多なる知を併せ持つルシ、セツナ卿。
こちらに視線を向けると、瞳の奥には決してぶれることのない芯があった。

「ひとつ問おう。汝らは何に代えても朱雀の…クリスタルの意志に推服するや否や?」

私はセツナ卿に一礼。答えんとした時、脳裏を誰かの顔が過ぎる。

「無論従います
朱雀の者は皆、その覚悟を持って戦場に来ています。」

「・・・・・・汝、名をなんと言う?」

「クラサメ・スサヤと申します。」

「では、クラサメ・スサヤ
否、汝の其れはいささか違(たが)う。
偽りでもなけれど、真ともなし
しかしなれど、その忠義は記憶の果てに存したり」

「・・・は、」

自分に、クリスタルよりも心服するものが・・・
はたしてそんなものが、記憶の奥に存在するのであろうか。

「クリスタルよりも貴いもの、か……了とした」


セツナ卿はしかし二言をつむぐわけでもなく、敵陣を向いた。


「では、粛々と初めるとしよう」

「セツナ卿に魔力を送れ!」


「…転回始めるは楔放つ歯車。1つ2つ3つ…」



魔力を送り続ける間、邪心を追い払おうとするが其れが又余計に思考させてしまう。
数日、この胸にあるわだかまり。そして、一つの疑問

次々と倒れ行く候補生、しかし私は全魔力送ってもなお今だ体力が衰える気配はない。
おかしい、候補生より多くの魔力を一度に送っているはずなのに。 



そして・・・思い出した、すべて。
シノ。シノ・ミスキ。
朱雀より、クリスタルより・・・世界より、信じている者。
生涯を共に歩みたいと思えた人

帰ったら、沢山叱ろう。

どうして、あんな無茶したんだと言って抱きしめよう。

そして・・・そして、―――


「我が因果の枷持ちて、朧なる咆哮の下」


もう眼の前で伝えることは出来ない、その言葉。
いつだってまっすぐと紡げなかった、この想い。

意識が掠れる中、最後の言葉を紡ぐ。

「シノ、・・・愛してる。

―朱雀に、クリスタルの、っぐ・・、加護あれ―――!!」




「深淵より、刧罰の叫び響かせ…天に現出せん・・・・・・」







The death wields a sword.

(最期の時は)(愛する人の下で)







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12/03誤字補正