FF零式 | ナノ


「いけいけシュウー!!
お前の実力はそんなもんかー!!」

「「シノやめてーーー!!!」」



*



思えば、そもそもこの賭けに乗った時点まで時をさかのぼらねばならないのかも知れない。
私とシュウ先輩は、既に7瓶を空にしていた。

「ウェっぅ・・・・・・熱い・・・。
トイレ・・・。」

「ふふふ〜シュウ武官?
もうおねんねでしゅか〜?
もっと遊びましょうよぉ〜〜。」

「ほんと、勘弁してくれ、まじで。
うっ!!!」

幼い頃、皇国周辺の雪山で軽い臨死体験をした私は、未成年とかそこら辺を無視して命の危機に扮した状態で初めてお酒を飲んだ。
アルコール度数は相当高い、ミリテス皇国の酒「ウォトカ」。喉が焼けるかと思ったのをよく覚えている。
そんな命の危機に何度も立ち会っている事から慣れが生まれたのか、アルコールにすっかりと慣れてしまった。
命の危機をかいくぐってまでお酒に慣れたのだ、きっと趣味で飲んでいるシュウ武官なんぞに負ける筈のない勝負だった。

始めは麦酒。
次第にアルコール度数は高くなって行き、それに比例してシュウ武官の口元も引きつってきていた。

ビール5杯、カクテル7杯、ワイン4杯・・・。
そろそろ水割りしない物しか出て来ないというところで、私も頭が麻痺してきたのだ。
そこで記憶は途切れているが、頭痛が酷かったのは妙に覚えている。

「シノ、もうやめた方が・・・ネ?
勝負にも勝ったんだしさ、」

「うるさいなぁー、じゃあエミナも一緒に飲もうよー。」

「きゃ・・・!」

「ちょ、エミナ君僕を盾にしないで・・・んっっっ!
シノ、君今すごく酒臭い。これ以上抱きつかないで離してくれ。」

「んだよー、俺の酒が〜飲めねぇっていうのか〜!?」

「ちょちょちょちょ!!!絞まってる絞まってるギブギブギブううう!!!
クラサメ君!殺気飛ばしてないで助けてよ!!」

「シュウ武官もどっかいっちゃったし・・・・・・皆に嫌がられうし・・・なんなのよもお〜〜っ!」


**


空になったワイン瓶を片手に、泥酔したシノはカヅサに絞め技を繰り広げていた。
カヅサを離すや否やペタン、と力なく床に座り込むが、本人の声からは力が有り余っているように聞こえた。
何故抱きつくのが俺ではなくカヅサなのかと少し腹を立てたが、観念したように酔っ払いの元へ近寄った。
未だ「も〜〜〜!!!」と叫び続けるシノの元へ寄って立たせてやろうとすると、不意に視線をこちらによこす。

「もうやめよう、体に毒だ。」

「・・・ぅ、クラサメまで私にいじわるいうー!」

ダメだ、コイツは今完全に酔っ払いだ。しかも絡み酒と来た。
顔を赤くして涙目で訴えてくるのでこっちも懸命に邪念を取り払うも、普段見せない姿に今後どうからかおうか楽しみになった。

「・・・では一つだけ我が儘をきいてやろう。
そうしたらおとなしくしろ。」

「本当?」

「もちろん。」

「ジン飲みた」「却下だ。」

「・・・・・・。・゚・(´;ω;`)・゚・。ブワッ」

「・・・・・・・・・はぁ。ほら、負ぶされ。」

黙って素直に背中に乗るシノが無性にかわいらしく思えたが、酔っ払いだと思い直し首を振った。
煙草をふかせながら、ママは後始末はしておくから、と手を振って見送った。やはり顎の毛は多少の違和感を拭えなかった。
カヅサとエミナも一緒に帰る途中、シュウ武官にかけていたたくさんの大人たちがシノと俺たちに向かった挨拶をしていった。
つくづくコイツは愛されているのだなと実感するとともに、俺の入る隙のない居場所がコイツにはあるのだと思えて無性になんともいえない気持ちに襲われる。

部屋は、3日後にチェンジされるらしい。
俺はすっかり住み慣れたシノとの相部屋に二人も招き入れると、ぐっすり眠ったシノを横目にどっぷりと疲れた顔で思い息を漏らした。

「・・・つかれた・・・わネ。」

「僕、お酒が人間に及ぼす影響があそこまで酷いだなんて知らなかったよ。
シノはなんだかんだ言っていつも手加減してヘッドロックしてるって事が分かったよ。体を張って証明された。」

「・・・・・・・・・。」

「クラサメ君?」

俺がエミナの声に反応できたのは、それから少ししてからだった。

「はは〜ん。
随分と熱い視線をシノに向けるのね?」

「一筋だなぁ。」

「・・・・・・・・・。」

「ほーら、無言で睨まない睨まない♪」

「よく同じ部屋で寝てられるね。
クラサメ君って実はヘタレ?ムッツリさん?」

本来ならばここで間違いを訂正すべく口を開かなければならないのだろうが、今の俺にはそんな気力など残っていなかった。
それに、口を開いたところでぐうの字も出ない。

*

二人が部屋を退室して、俺は幸せそうに寝るシノの横でこいつのの前髪をいじっていた。

「もう・・・お前との生活も終わりだな。」

もちろんの事ながら返ってこない返事に、追い討ちをかけるかのように独り言を呟く。

「この一年間・・・お前といられて楽しかった。」

「お前がいなかったら、きっと俺の訓練生時代はこんなに充実したものにはならなかっただろうな。」

「一緒に勉強して、特訓して、時には喧嘩して、泣いているお前を隣であやして・・・。」

「今なら言える。お前と同室で良かった。」

「この想いはきっと伝えないだろうが、ずっとお前の傍にいたい・・・なんて、らしくないな。」

「・・・俺らしくもない。」


「そんなことないよ。」


掠れた、しかし意識のハッキリした彼女の声に、俺の心臓はこれでもないほど跳ね上がった。
返ってこないはずの返事が、返ってきた。
髪を撫でていた手をどかそうとすると、彼女はすかさずその手を掴んだ。顔が見えない。

「私も、スサヤといれてよかったよ。」

「これからまた新しい生活が待っていて、忙しくなっても。」

「またこうして、一緒に月を眺めたい。」

そう言って俺の手を離す。
窓から差し込む月明かりに照らされたシノの顔が、鮮明に見えた。
同い年にしては童顔なその顔はやっぱり綺麗で、俺は彼女の笑顔が好きだ。

「・・・ああ、そうだな。」




叶うならば、いつまでもこの時が。




死神は願う。