FF零式 | ナノ


「んーー、すぅ・・・。」

「・・・・・・・・・またか。」

早朝。
一日の始まりは決まって横にシノがへばりついている。
俺を抱き枕にしているシノは相変わらず幸せそうに寝息を立てており、自分から覚醒しない限り絶対に目を覚まさない。
こいつは、見かけによらず馬鹿力なのだ。がんばれば抜け出せないこともないが、朝からそんな体力を使いたくない。
4日に1度ぐらいの割合で頻繁に起きているこの現象は、何度体験しても正直頭が痛くなる。

「すぅ、・・・・・・ん。
・・・・・・・・・・・・あ、クラサメ。おはよー。
ごめんまた布団に入って・・・・・・。」

「・・・はぁ。おはよう、シノ。
次のルームメイトには世話を焼かせるなよ。」

「はぁい。」

やっとと言った様子で覚醒するシノ。
ベッドを出ると、少し肌寒いのかこちらの布団を恋しそうに見てきた。
だが俺は決して屈しない。屈してなるものかと首を大きく横に降る。何だこの罪悪感は。

季節が過ぎるのは早いもので、もう3月の頭。
早朝5時過ぎは冬の名残が残っていてまだ気温が低い。
いつものように個々のトレーニングを済ませた俺たちは、いつものように軽く組み合い、シャワーを済ませて食堂へ向かった。

食堂には珍しくエミナとカズサが先についており、席をとってくれていた。
まあ、席を取ると言うか4人いつも同じ場所で食べているのでそこに誰も座らないだけなのだが。
今日の朝食は俺がCセット、シノが朝からオムライスだったのでシノの口についたケチャップをハンカチでふき取る。
歳の離れた妹を世話している気分になるのはきっと錯覚ではないだろう。

「ちょっと、そういうのやめなさいよクラサメ!」

「自分でハンカチを持ってきてからいうんだな。」

「でも、だって!公共の場で・・・・・・・・・・は、はずかしいじゃない・・・。」

「・・・・・・・・・」

「・・・〜〜〜んもう!!
シノかわいい!!!」

「あれ、どうしたのクラサメ君・・・あー、固まっちゃった。
君のロリコン・・・いや、シノコンも大概だなぁ。」



*



「さて問題。
山で遭難した私たちは吹雪の中山小屋を見つけたわ。
まず始めにすることは火を取ることだけど・・・私たちには魔力がない。どうする?」

「最良なのは近くに皇国兵がいたらそいつを襲って火を奪うことだな。
大概山小屋に住んでいるのはあたりを監視している皇国兵だ。
最悪誰もいない状態なら薪、石、モンスター、人肌だな。」

「そう!優秀よ、クラサメ君。」

「シノ先生ー、それ魔術講習じゃないですー。」

「何を言っているの?私の授業に文句があるのなら出て行きなさい!」

それから、昼食の時間まではシノによる魔術講習を受けていた。
シノは教え方が非常に分かりやすく、納得のしやすいたとえを出してくれるので理解が早い。
そしてなぜか凄くノリノリなのだ。



*



夜。今日はシノは(得たいの知れない)バイトの日で、各自夕飯を済ませることになっていた。
遅めの夕飯を取った俺はお昼から掻いた汗を洗い流した後、ココアを片手に軽く夜風に当たろうと思いベランダを開けた。

ココアを口にし、オリエンスの星空を眺めようとしたところで、足元のすぐ横でシノが体育座りで丸くなっていた。
大抵こうしているときはとてつもなく落ち込んでいるときや、反省しているときだ。

「・・・帰っていたのか。おかえり。」

「・・・・・・・・・・・・ただいま。」

しゃがれた声でただいまと返すシノに、今日はいつものより相当に自分を責めていることが伺えた。
ココア飲むかと差し出せば、暫くして飲む、と帰ってきた。
夕食はとっていないのだろう。反省していてもお腹がすくようで、腹の音に少し恥かしそうに呻いた。
俺は苦笑いを零し、頭の中で胃もたれしないメニューを浮かばせていた。

「・・・・・・家の、」

「ああ。」

「実家の、クァールが・・・死んだんだって。
でも私、名前も覚えてなくて・・・、何度も、何度も・・・スサヤに話した子なのに・・・。」

「ああ。」

「ちいさな頃から・・・ずっと一緒に寝てたのに。
何も思い出せないの。あのことの思い出。ひとつも。まるで、私は今まで一人で寝てたみたいな記憶に改ざんされてて、」

「・・・ああ、」

「悔しい。
これが世界のおきてなんだって分かってても・・・悔しいッ!
お礼がいいたかった・・・!今まで私の子と見守ってくれてありがとうって!
天国でも、元気でねって・・・!!!いいたかったのに!!」

「・・・・・・」

「明日になったら、私はあの子の存在すら認識できなくなってしまうのよ?
それじゃあ・・・・・・、

それじゃあ誰が、あの子の生きてた証を証明するのよ!!!」

「・・・ああ、そうだな。」

こんなとき。シノの話を横で聞くことしか出来ないのが。俺は一番辛い。
もちろんパートナーとして。

月明かりに照らされた凛とした泣き顔は、とても美しかった。
シノの泣き顔は美しい。他人の為に流す涙は、こんなにも美しいものなのか。
―――死者の記憶は残らない。それは俺たちが前を向いて過ごしていくため。
しかし彼女は、この世界の理をも否定する。

そんなのおかしい。堂々とそういえる彼女は、俺が横に並ぶのにはあまりのもまぶしすぎる。

・・・そんなお前だから、好きになったんだ。


「・・・・・・なら、お前が覆せばいいんじゃないか?『世界の理』を。」

「・・・・・・・・・・・・ふふ、
簡単に言ってくれるじゃない!!クラサメのくせに!
あんたは事実か可能性のある事しか言わないんじゃないの?」

少しいつもの調子が戻った笑みをたたえ、シノは幾億もの星空に手を伸ばした。

「いつか・・・分かるかしら。
この世界の秘密が。隠された真実が。」





やれるさ、お前ならな。









Sufferings of the death.







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お待たせしました!これにて訓練生編終わりです!