「・・・定期考査?」
「あぁ。」
「・・・・・・・・・明日?」
「あぁ。」
・・・うっそーん。
事の始まりは早朝。
いつものように、お互いそれぞれの朝を過ごしていた。
一緒に食堂まで行けば、いつも元気良く騒いでいる集団を見かけるも、空気が重たいことに気がつく。
しかし私も例のアルバイト明けでテンションがいまいちあがらないので、突っ込む気力も使いたくはなかった。
「ねぇスサヤ・・・今日は候補生も訓練生も、雰囲気が暗いわね。」
「まあ、そうだな。
個々の戦いに備え、身を引き締めているのだろう。」
戦い・・・確かに、雰囲気がぴりぴりしている。
私の気づかぬ間に、どこかと大きなどんぱちを始めるのだろうか。
私は日替わり定食の食券を手に取り、食堂のおばちゃんに手渡した。
「お前はいいのか、準備は。」
「ええ、そうね。
時が来たら、全力を尽くすまでよ。」
その返事を聞くや否や、スサヤはきつねうどんを手にとって心強く微笑んだ。
「そうか。
お互い、がんばろう。」
「ええ。」
【ちゃらちゃらーちゃーちゃーちゃっちゃらー♪】
『スサヤ との 友情 と 信頼 が 5 あがった !!』
「ちなみにカンスト(カウンターストップ:最大値)は10000よ。」
「何か言ったか?」
かんすと?と不思議そうに首を傾げる彼に、私はわざとらしく咳払いをして話を打ち切る。
「ごほん。
いいえ、何も?」
「じゃあ、勉強会しましょう!
そうね、そうするのが一番だわ!」
「僕もそう思う。」
「そうね、早急に対処が必要だわ。
・・・・・・って、え?」
私が思っていたことを誰かが口に出していたのでそれに便乗してみたが、良く考えればそれは2人。
私とスサヤだけに会話に3人で話せるわけがないのだ。
私はあたりを見回すと、そこにはエミナとカズサが張り付いた笑顔で首を立てに振っていた。
どうしてお前たちがいるんだ、どこから沸いて出た!
そんなこんなで勉強会をすることになったが、何分4人とも頭が大変よろしいことで、私はなんとか主席をキープできそうだと内心安堵した。
もともと予習復習を欠かさなかったこともあり、提出するレポート以外の心配はなかった。
・・・しかし、私がスサヤのノートを借り、さあやろうとしたところで、私の考えは残酷なほど甘かったと後悔することになった。
「ねぇねぇシノ、そんな一人で勉強してないで、皆で話し合いましょうヨ!
議題はそうね・・・食堂のメニューなんてどう?」
「食堂のメニューかぁ・・・まぁお勧めじゃないのはあれだよね、クァールのソテー・・・。
おいしいけどさ、今さっきまで自分が殺した食料だと思うと気が引けるよね。」
「しかし、それが自然の摂理というものではないか。
人間どの国家に属していようと何か動物の肉は口に入れるはずだ。」
「んーでもさ、何の肉かを知ってしまったら少なからず食べる気力は下がるわよネ。」
「まぁ僕は魔導院から出るつもりないからそんなのはないけどね。
実験でクァールを使った後の『クァールのソテー』は正直堪えるよ。」
「なにそれ、将来引きこもりにでもなるつもり?」
眼の前で繰り広げられる会話に耳を傾けてはいなかったが、明らかに世間話をしていることは明確だ。
それにスサヤまで
「・・・・・・・・・っ、あんたたち・・・・私に勉強させる気ないでしょう!
私は効率性を求めて勉強会を開こうって言っているのに、世間話で終わらせる気!?
スサヤ!貴方も貴方で何会話に混ざってるのよ!やるからには100点目指しなさいよ!」
「すまない。
ミスキに手助けは無用のように見えてな。」
けろりと言い返してきたスサヤに、私はぐうの字も出なかった。
確かに私もつい先ほど同じようなことを思ったからだ。
「・・・・・・はぁ。
確かにそうかもしれないわね。」
「ははは・・・シノ、もうちょっと謙遜しようよ。
ところでさ、なんでそんなにがんばるのさ。
君ぐらい優秀だったら主席から外れても魔導院側がほうっておかないだろう?」
「・・・べつに。
魔導院側の期待に答えてるだけ。
私保護者いないし。」
「「「・・・・・・・・・・・・。」」」
「なんか、ごめん。
いけないこと聞いちゃった。」
「ごめんネ、シノ。
寂しかったよね・・・。」
「勝手に人の親殺さないでくれるかしら。
私の両親は最後に会ったときもぴんぴんしてたわよ。
ただ・・・・・・ううん、なんでもない。
ほら早く勉強するわよ!わかんないとこ教えてあげるから。」
「あ・・・・・・うん。」
後味の悪い始まり方だったが、勉強会のせいもあったのか私の成績はなんとか主席をキープできた。
スサヤのほうも5以内、エミナ、カズサも30以内に入り、それからというものしばしば私は勉強会という名目で彼らに振り回されることとなるのだが・・・それはまた別のお話だ。