FF零式 | ナノ

魔導院ぺリシティリウム朱雀の地下奥深く、そこには日中疲れ果てた精神を癒す場所、「バー母の味」がひっそりと存在していた。
その存在はけして周知ではない。選ばれし者のみが導かれ、その扉を開けることが出来るのだ。

カランカラン、と耳になじむような鐘の音を鳴らし木製の扉が開く。
それにより、新たな来客の登場と分かると室内の者がいっせいに来客に視線を投げる。
しかし、来客は顔なじみの者ではなかった。
カウンターの奥にいる一際目立つ衣装の男性・・・自称女性の彼が、来訪者に声を投げかける。

「あら、新しい子?
いらっしゃい、ここは【バー母(ママ)の味】よ。」



*



何だ此処は。

私はかつてないほど状況がつかめずにいた。
あの奇怪な文字列の謎を解いて、たどり着いた場所。
扉を開ければオカマがいて、他にも飛空挺の整備士とか、武官さんに文官さん。
この状態を唯一説明してくれるはずのマキバという人も来てはおらず、私は無性に帰りたくなった。

「嬢ちゃん、名前は?
見たところ12,3ぐらいか?」

「ちっせぇなー、もっと飯食え飯!」

「それよりあんた、どこから迷い込んできたのかしら?」

私の周りを囲む人たちの質問の嵐に、私はとうとう憤慨してしまった。

「あああああーーっ!
もうなんなのあんたら!」

「まずそこの整備士のおじさん!
私はシノ・ミスキ、16よ!!

そんでそこの隣のタバコ吸ってる人!
飯くらい食ってるわよ!!!牛乳も毎日飲んでるわよ!!!」

「最後にそこのオカマ!
道を歩いていたらこの場所に誘導されて、マキバという男に貰ったメモの暗号みたいなのを解いていったらここに着いたのよ!!!」

私は席を立ち上がり、質問をしてきた人を次々と指を指して答えていく。
一瞬の静寂の後、オカマ以外の周りの男性人たちがいっせいに冷や汗をかき始めた。

「・・・やべぇ、お嬢ちゃん・・・オカマは地雷だ。」

「すまんなあ嬢ちゃん。ご愁傷様。」

「・・・え、何?ちょ、」

そういって次々と私の肩を叩き後ろに下がり、他人のように(実際他人だが)奥で再び酒を飲み始める。
私が何したって・・・

「ちょっと・・・あんた。」

前方から、ドスの聞いた声。
女口調の、重低音のその声の主は、紛うこと無きカウンターの向こうのオカマから発せられた言葉だ。
・・・やばい、分かった。



私、地雷踏んだ。



「私が何だって?あぁん?
もう一度言ってみなさいな。」

「ご、ごめんなさ」

「何を謝っているのか、よくわからないんだけど。」

「貴方のことをオカm」

「あ゛ぁ゛っ!?」

ジャコン!

「ここのバーのママはとても綺麗なお姉さまだなあ!!!」





ついにライフル(というか何故持っているんだ。)を持ち出してきたママ。
その黒光りした銃器を目前に反抗する余地などなく、私はとっさに大声でそう叫んだ。
するとママは先ほどとは打って変わって貼り付けたかのように綺麗な笑顔でこう言い放たれた。

「あら、わかってるじゃないの


「・・・・・・・・・。」

ライフルを持ち出すとか、それ脅しです。
だって詠唱時間考えて。こっちが唱えている間にパン、だよ?
そうかんがえると白虎の武器最強じゃん。

そんな茶番をしていると、鐘の音がまた新たな来訪者を知らせた。
ドアから入ってきたのは昼に確かに見た顔、私を此処まで誘導したマキバ本人その人であった。

「こんばんわ、ママ。
あれ、随分と来るのが早かったね、シノちゃん。」

「なにすっとぼけてるのよ!
あのループ魔法も、メモで此処まで謎解きさせてたのは貴方でしょう!」

「あ、ばれた?
いやーでもすごいなあ、本当に此処までたどり着くなんて。
僕、もっと時間かかると思ってコーヒー淹れてから来ちゃったよ。」

「たどり着く?
もし一歩でも道を間違えてたらどうなっていたの?」

言葉の節々に奇怪さ臭わせる彼の発言に引っかかりを覚え、たずねる。
するとマキバはキョトンとした顔でこちらを見るものだから、殴りたくなった。

「あれ?もしかして一回も間違えずに来たの?
すごいやシノちゃん。あれ、間違ったらまたループに戻るところから始まるんだよ。
2時間ぐらい経ってもたどり着かなかったら自然ととけるようになってるけど。」

つまり、道を間違えても2時間以内には帰れないということか。なんともやっかいなことだ。

「え、お嬢ちゃん・・・まさか非常用口を逆走してきたってのかい?
こりゃすげぇや・・・あれ、最後の扉の奴なんかまぐれが起きないと解けねぇって思ってたのになあ。」

非常口?
つまり、正当な道から来ていないということなのか。
私は思わずマキバを睨む。此処まできたら一発蹴ってやらないと気がすまない。

「マキバさん?」

「あーっはは。まぁまぁ。
でもま、これで君の実力も分かったことだし、心配せずに任せられそうだよ。」

「・・・・・・何を」

その質問に、まあ座ってと先ほどまで座っていたカウンターの椅子を勧められる。
私がそこに腰を下ろせば、目の前にガトーショコラが現れた。
皿を持つその手の先を見れば、ママが「奢りよ」とウインクしていた。
そして、マキバさんはママにコーヒーと一言告げて私に顔だけ向き直る。このひとまだ飲む気か。

「昼に言った、人助けだよ。主に僕を。」

・・・あ、このガトーショコラおいしい。

「やることは実験台。身の保障はさせてもらうけど、君ならきっと成功するはずさ。・・・たぶん。」

「今、小さな声で多分って聞こえましたけど。」

「おや、耳がいいんだね。
それならきっと問題ないだろう。シノちゃん、実験に付き合ってくれないか?
もちろん一時でも身を危険にさらすわけだから、それに見合った報酬はあげる気だよ?」

「話を逸らさないでください・・・・・・はぁ。
で、報酬はどのくらい?どんな実験?」

このガトーショコラ・・・スサヤにお土産として持っていこうかしら。

「はは、あざといなぁ。
実験は脳による仮想プログラム。
肉体面の使用はしないけど、仮想プログラムによって筋肉のどの部分が強化されるか・・・とか、非常時の脳波の動き、等をシュミレートするんだ。。
これが完成したらきっと実践でもかなり役に立つだろう。どう?

給料はそうだな、一回で5千ギルぐらいで・・・。
それか、お望みとあらば回復アイテムもつけちゃうよ?」

「わお、おいしい話ですね。
・・・でもそれ、大成功したら大もうけですよね。
それなら給料はもっとくれたっていいんじゃないですか?」

にっこりとした笑顔でそう言い放つ。
これはきっと、今の朱雀の工学技術を遠い目で見ても大発明だ。
成功することを前提に、取れるところは十分に搾り出すべきだ。

「うーーーーーーん・・・。
じゃあ・・・7千5百ギル!!これで手を打たないか?」

「ママー!これ一つ買って行っていいー?」

「あら、気に入ったの?しょうがないわね、もう一個サービスしちゃう!」

「きゃあ、ママ太っ腹ー!」

「誰の腹が太いですって?」

「え、いや、そういう意味じゃ・・・!!
と、友達にこのおいしさを勧めようかと思って、ね?」

「なら仕方ないわね

「・・・ダメか。
・・・じゃあ、9千ギル・・・。これが限界だよ。」

「・・・・・・・・・・・・。」

ひたすらにじっとマキバさんを見る。
何をするでもなく、瞳をじっと。そして目で訴える。
9千より、区切りのいい数字ってありますよね?

「うぐ・・・・・・っああああー、もう、いいよ!分かった!僕の負けだ!
1万ギル!これでいいだろう?」

「わぁ、マキバさんって、気前いいんですねー!
ぜひともやらせていただきます、実験台。」

(((悪魔だ・・・悪魔の子だ・・・・・・。)))

ん?今なにか聞こえたけど気のせいよね。

「では、私はそろそろ帰らないと。
もちろん、また非常口を使わせたりはしませんよね?」

「ええ。
このママがあなたに関係者用の魔術を施したから、貴方が階段を使って降りた道の先はバーママの味よ

「ありがとうママ、また来るわね!
マキバさんは、連絡は私のCOMMにお願い。
さようなら。」

「ちょ、僕君のCOMMアドレス教えてもらってな」

バタン。
扉を開ければ、眼の前には上へ続く階段。
外も結構暗くなっているようで、扉の近くにある蛍光灯と、階段の頂上にある蛍光灯が道しるべだ。
私は少し急ぎ足で階段を上り小道を出ると、やはりそこは訓練生の宿舎の調理場と食堂の間。
正確な位置を覚え、私は部屋に戻る。

今日の夕飯のメニューを創造しながら、スサヤへのお土産のケーキの入った袋がカサリと揺れるのであった。






The evil design of the butterfly.





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後のほうが急ぎ足でした。
ママの台詞の・・・はーとマークがちゃんと表示されているか心配です。

追記:見えなかったのでデコヤさんのお世話になることにしました。