FF零式 | ナノ

夕飯時。
とりあえず部屋にいては夕飯の楽しみがないなと思い、宿舎を出てみたはいいものの。
はたと私に友達がいないことに気がついた。

「・・・いや、えっと、エミナはまだそんなに仲良くないしっ・・・第一呼び出しちゃ悪いし!
・・・・・・・・・て、私は誰に言い訳しているのだか。」

そしてまた一人ため息をつき、歩き出す。しばらく適当に歩いていると、ふと頭に疑問符が浮かんだ。
適当に歩いているにせよ、なぜか宿舎の周辺から出られない。
その時点で一つの可能性を見出した。何者かの魔力干渉だ。
魔導院の中そのものは魔術が多く施されていて、それが全てどの人が扱っている魔術なのかは多すぎて判断しきれない。いわば、電波障害・・・混線状態ともいえるだろうか。
しかし、それらに意識を向けて感じ取ればその魔力がどこから来ているのかはつかめないこともない。
私はこの無限ループの空間を脱出するのではなく、あえて敵陣に乗り込もうと考え歩き出す。

私を干渉する魔力反応は、無限ループになっていることから体ごと別のダミー空間に飛ばされたか、何処かの道でワープをさせているかの二択が考えられる。
前者の場合、不安定の場所に身を置くことによってCOMMに何らかの支障が起こるだろう。しかしそれがないということは、後者の可能性が高い。
私は魔力反応が乱れると予想される曲がり角の一歩手前にポケットに入っていた紅いビー玉を転がす。そして先に進んだ先にある角の前には蒼いビー玉を転がした。
曲がり角を曲がると、次に曲がった先の角の手前下には紅いビー玉が落ちていた。
それを拾い上げ、自分のものと確認するとその角を曲がり、蒼いビー玉が落ちていることを確認して角を曲がった瞬間魔力反応に全神経を集中させた。

・・・あった。途切れない、まるでピンと張った糸のようないくつもの魔力の中で、一つだけ一瞬ブレた魔力。
とてもわずかなものだが、拾えたらそいつを切るだけだ。私は目を瞑って次の角まで行き、次の角を曲がる瞬間にその魔力の向かう向きと逆の魔力を押し出して打ち消す。

目を開ければ、眼の前には地下へと続く階段があった。ここは何処だ。
よくみたら、訓練生宿舎の食堂と調理場の間の小道。隙間は150cmといったところか。
当然あたりに人はいなく、見る限り何処からも死角になっている。階段の奥の方に見えるのは、「バー母の味」という看板。
そして、ふと今日の出来事を思い出してポケットにしまった紙を取り出す。


嫌な予感がした。










階段を下まで下りると、いきなり突き当たった。
メモの一番したには【汝朱也。始めは蒼に攻めよ。行けぬなら、黒を見据えよ。瞳の心で白を見つけよ。】という走り書き。
検討がつかない。汝朱也。お前は朱だ。あか・・・朱雀?偶然か、このメモに出てくる色は朱、蒼、白、黒。オリエンス4大国のイメージカラーでもある。
となれば、初めは蒼に向かえばいいのか?いや、だがこの突き当たりは壁も何もかも木製であり、蒼も何もない。

「・・・あっ」

東西南北。
東が蒼龍、西が白虎、南が朱雀、北が玄武。つまり、蒼に攻めよというのは・・・東へ向かえ。
私は南にいて。この場合正面へ行くと北。右へ行くと東、左だと西。そういうことか。
とりあえずこれを答えと仮定し、左右に分かれる突き当りを右へ進んでいく。

入り組んだ、幅200cm程の一本道を進んでいくと、底に待っていたのは突き当たりだった。行き止まりだ。
答えを間違ったのだろうかとメモを見直すと、次の文章は【行けぬなら、黒を見据えよ。】
黒。始めの突き当りで右、次に左、すぐに右に曲がって左、右、右、左。今の私は正面が東だ。
よって、黒は左。突き当たりの左の壁を綿密に調べてみると、下のほうの音が違った。叩いたときの音が、軽いのだ。
私はどこかに外せる場所がないかを探り、見つけたのは縦横70cm程の空洞。つくりは相変わらず木製で、奥まで繋がっているようだ。ちゃんと人が作ったのだろう。通れる。

もう少し身長が大きければ、この空洞をはいはい歩きはきつかっただろう。
私はぎりぎり顔を上げても苦もなく進めることにがっくりとして、同時に悲しくなった。伸びる。きっとこれから伸びると自分に言い聞かせた。

途中、今までの曲がり角とは違う曲がり道があった。横にカーブしだしたので、これでは東西南北が分からないと少々困った。
やっと出口かと思い、はいはい歩きから立ち上がって上へと続く階段を上がる。
途中少しずつ下り坂もあったから、きっとまだ地下だろう。階段を上がりきると、久しぶりに光を見たかという錯覚を覚えた。
正方形縦横高さ2mx2mx2.5mほどの空間。私はそこの真ん中にあいている階段から上がってきた。
先ほどまで、何の音もせず光もなかった空間にいた所為か、揺れ動くランプの明りと魔術の痕跡が別世界に来たかのように感じられた。
4つの壁には、同じ形、同じ色、同じ取っ手のドアが4つ。東西南北が分からなくなった今、何処に向かえばいいのかさえわからない。

とりあえずと全てのドアを開けてみたが、暗闇が広がっていた。本能で一歩でも足を踏み入れてはいけないという警報が鳴る。
これも、謎を解かなければ進めない仕組みになっているのか。

メモを取り出す。最後の文字は、【心の瞳で白を見つけよ。】
心の瞳で・・・。つまり、目に見えるもので判断をすることは出ない、ということか。
とりあえず目を瞑ってみる。何もない。魔力反応に意識を集中させるが、煙のように巻かれてしまう。
しばし、目を瞑り周りを感じてみた。

しばらくしてなにもないと諦めかけていたところで、以前スサヤのやっていた正座で音を感じる修行みたいなものを思い出した。
私もなんともなしに正座をしてみる。
背筋が伸びることで、先ほどより集中力と緊張感が増した気がした。

そこで、私はある「音」を感じ取った。
とても微量な、聞き取れもしないような、音。
この空間は特殊なもので出来ているようで、魔力を外に放出してしまうらしい。なので魔術は使えない。
さらにその音を意識して聞いてみる。

ジジジ、という音に、規則的にカチ、カチという音が交じり合う。
・・・・・・・・・、機械・・・だろうか。
この音は、長いこと聞いていないが・・・父さんが作っていたからくり仕掛けの時計がこんな音をしていた気がする。


――そうか。
機械音。白虎の得意とする戦い方は、膨大な人数を使った出兵と、大量生産する機動兵器や武器。
白を見つけよとは、機械音を探せ。
私は機械の音がする扉へと足を進め、静かにドアノブをまわす。

すると、先ほどは何もなかったはずのドアには先が続いていた。
5メートルほど先には、ドアの隙間から漏れる明りに、ドアの前に立てかけられた看板とそれを照らす小さな蛍光。
看板に刻まれた文字は・・・言わずもがな、「バー母の味。」
もう先ほど感じた時計の音はしなかった。




私は、渋々とバー母の味のドアを開いた。







The butterfly worries.
(なんだかんだで)(楽しむ自分)






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うん、はい。誰も出てきませんでしたね。
これ何の小説だっけ。w
そして、この情景を頭に思い浮かべられますでしょうか。不安。