FF零式 | ナノ

太陽が南よりの真上の空に上がった頃、私たちは再び人の賑わう市場へと足を運んでいた。
先ほどのようにスサヤの手を掴んで一緒に歩くが、やはり身長差があるせいか彼の歩くスピードに少しだけ追いつけないでいると、彼は気がついたように歩調を私に合わせて歩き出した。
私はスサヤの些細な気遣いに感謝をするがなんだか素直にお礼を言えないので、彼の手を引いて少し先に走り出す。

「さあ、スサヤ!
今日の夕飯は何にしましょうか。」

「朝食はミスキが作ったのだから夕飯は俺が作るのが道理ではないか?」

「ふむ。
・・・それもそうね、じゃあ、私は一緒にいない方がいいかしら。
今夕飯の食べ物を知ってしまうと、後々楽しみがなくなるから。」

「・・・そうだな、では午後2時半、2時間後に噴水広場で落ち合おう。」

「了解。夕飯、楽しみにしてるわよ。」




私は下町を適当に探索しようと思い、大通りを外れて入り組んだ小道へと入る。

小道を抜けた民家の立ち並ぶ場所は静かな雰囲気の楽しめるところで、魔術が発達した魔導院では体験できないような生活をしている人々ばかりだ。
魔術を一切使わない生活。
私にとっても耳慣れたその生活は、しかし魔術のある便利な生活に慣れてしまえば懐かしくすら感じるものであった。
私は遠くで子供のはしゃぐ声を聞きながら、洗濯物を干しているおばさんや、犬とのどかにベンチでくつろいでいるおじいさんを眺めながらのどかだなと思う。
ふと遠方から赤い風船を持った男の子がうれしそうな顔で後ろにいる女の子の方を向きながら走っていた。
前方不注意と注意しようとするも時既に遅し、男の子は前を歩いていた陰鬱そうな男性にぶつかってしまった。

「わあ!ごめんね僕、大丈夫かい?」

「あっ!風船が!!」

ぶつかった衝撃で男の子の手の内から離れていった赤い風船は、もう一軒家の2階ほどの高さまで上っていた。
私は風船の真下辺りまで駆け、近くにあった壁をジャンプで上り、その高さから1,5メートルほどを飛躍する。
風船をぎりぎりのところで掴んだ私は、重力にしたがって地面へと叩きつけられる。
そうなる前に身を翻して足から着地すれば、一瞬の静寂の後、まばらに拍手が聞こえてきた。

「はい、少年。
今度はちゃんと前を向いて走るんだよ。」

「お姉ちゃんすごい!ありがとう!」

「私からも、ありがとうございましたお姉さん!」

礼を言った後男の子と女の子は、また何事もなかったかのように走って言った。――今度は、前を向いて。
私はそんな二人に小さく手を振ると、その場を去るためきびすを返す。

「あの、ちょっと待ってください!
君、もしや候補生かい?今の身のこなしからして、2組・・・いや、1組とか」

ふと呼び止められると、先ほどの被害者の男性は興奮気味に話しかけてきた。
言葉からして、魔導院の事に詳しいようだ。
だから多分、下町の人ではない。

「いえ、私はまだ訓練生の身です。
それより貴方は・・・?
口ぶりからして魔導院に詳しそうですが。」

「おお、すまない。自己紹介が遅れたね。僕は魔導院第六研究所に勤めているマキバという者だ。
君、訓練生ながらすごい身体能力を持っているね。もし良かったら僕の話を聞いてくれないかい?ああいや別に何を使用とか言うわけではないんだ、ただ僕の実験に付き合ってくれる人材がいないと僕の理論に証明がつかなくてね・・・いや!怪しい実験とかではなくてね、身の危険はないと思うよ、多分、だから・・・」

さっきとは打って変わって明るい表情のマキバさんは、弾丸のように沢山の言葉を投げかけてくる。
私はいまいち状況についていけず、そこでストップをかけた。

「少し落ち着いてください。
それで、完結に言いますと私に何の用なんですか?」

「ああ、ごめんね。
君に助けて欲しいことがあるんだ。
もし良かったら、えっと・・・ちょっと待ってね。

・・・・・・ここに、今日の夜、いつでもいいからいてくれないかな?
怪しい事ではない、それは保障するよ。
じゃあ、待ってるね!また。」

私に何かを書いた紙を渡していったマキバさんは、風邪のように颯爽と何処かへ駆けていった。
私は手に握られた紙を開くと、それはどこか場所の地図のようだった。
場所は魔導院の裏にある訓練生用の宿舎の裏、しかもどうやら地下のようだ。
『バー母の味』・・・?酷く陰気臭い名前のバーだ。
私はマキバさんには申し訳ないが、行くつもりもなかったので小さく折ってポケットにしまった。






その後、本屋で好きな作者の小説の新巻を2冊ほど買ったところで2時を回っていたので、噴水広場に向かった。
噴水広場に着いたところでまだ2時10分だったが、どこに行く気にもなれず先ほど買った本を序章ぐらいなら、という軽い気持ちで読み始めた。

「ねぇねぇお嬢さん、今暇してるよね?
良かったら俺たちと遊ばない?俺、魔導院の候補生なんだよね〜。」

「・・・・・・。」

「あれ、無視?
ガードが固いなあ、じゃあ無理やりでも付き合ってもらおうかな?
・・・・・・いけ、お前ら。」

気がつけば、私の両腕を誰かが掴んでいた。
人の読書を邪魔しやがってと思いながら不機嫌気味に顔を上げれば、知らない男の顔がドアップで映っていた。

「・・・何のつもりですか?」

「あ、やっとこっち見てくれた♪
俺、君と一緒に遊びたいんだよねえ。付き合ってよ。」

「・・・断ったら?」

「魔導院の候補生の俺に、背の小さい君なんかが勝てると思ってんの?
力ずくにでも一緒に付き合ってもらうよ。楽しいこと、しようよ。」

そういってにやりと笑った彼を見て、私は嘘だなと思った。
確かに魔導院の関係者かもしれないが、候補生ならこんな手下みたいな人を4人も5人も連れて歩かないはずだ。
・・・一般人相手なら、魔力や武力でも敵わないのだから。
私は彼の手が私に触れようとしたことに虫唾が走り、右足を大きく振り上げて左腕を掴んでいる人の鳩尾を蹴り上げて腕を開放し、続いて右腕を掴んでいる人の股間を蹴り上げる。彼はあまりの衝撃に噴水に背中から倒れ、水しぶきが飛ぶ。本は・・・良かった、濡れていないようだ。
自由になった体で主犯の彼の後ろに控えていた二人を回し蹴りで地面に伏させ、今だ私に背中を向けている主犯の背中を思いっきり蹴り上げる。噴水に頭から突っ込んでいった主犯は、鼻に水が入ったのかむせている。

「くっそ、このアマァ!!」

「しばらくそこで反省することね。
!?・・・・・・くあ・・・っ!」

しまった、人の気配が多すぎて後ろに仲間がもう一人いることに気づけなかった。
彼との身長差があるせいか、私は後ろから腕を首に回されたまま宙釣り状態になってしまった。
遠慮なく首を圧迫してくる力に、意識が朦朧としてきて力が入らなくなる。

「へ、油断してんなよアマ・・・。
悪く思うなよ、お前を痛めつければ俺の給料が上がるんでな。」

そうか、主犯は彼らを金で雇ったのか。
まだ一人前に働けないヤツが親の金を使って何をしているんだ。
私の視界はどんどん真っ暗になり、今は武器も持ってはいないし、もう魔力を使うしか・・・と考えていたところで首への圧迫が消えた。
私はそのまま地面に倒れ、咳き込む。まだ魔法は使っていないのに、何故だと思ったところで後ろを向くと、スサヤが立っていた。

「スサ、ヤ・・・げほ、」

「遅くなってすまない、ミスキ。
お前ら、女性に手を出して恥かしくないのか。身を弁えろ。」

私の首を絞めていた青年は、私のすぐ近くで気絶していた。手荒なまねをしていなかったことにさすがスサヤだという場にそぐわぬ感想をいだいた。

「・・・そこの女が始めに手を出してきたんだ!俺たちは悪くない!!」

「たしかに始めに暴力を振るったのはコイツかもしれないが、お前たちが暴力をせざるを得ない状況にしたのではないのか?
少なくともコイツは、何もしていないヤツをむやみやたらに怪我をさせるヤツではない。力の使い方を知っているからな。」

「俺見たぞ、先にこいつらが彼女を何処かへ連行させようとしたの!」

「あ、私も見た!助けてあげられなくてごめんね。」

「俺も!」

「私も。」

スサヤがそこまで言うと、先ほどまで口を出さなかった野次馬からさまざまな声が飛び交った。
これで、完全に形勢逆転だ。
私は立ち上がって主犯の彼の傍まで近寄り、彼に言葉を投げる。

「思い出したわ、貴方の名前。
この春訓練生になった、総合成績下から5番のマルク・アイアンね。
悔しかったら、私を正々堂々倒して見せなさいな。

総合成績主席の、シノ・ミスキをね。」

それだけ言い残し、スサヤのところへ戻る。
これから彼がまた同じ過ちを繰り返すか、更生するかは彼次第だが、今度は正々堂々と戦いたいと思った。


「ありがとうスサヤ。おかげで助かったわ。」

「ああ、礼には及ばん。
それにしても良く名前なんて覚えていたな。闇討ちをされるとは思わないのか?」

「あら、心配してくれるの?
もちろんされるかも知れないけれど、私はされない方に懸けてみたい。
それに・・・同じ事が起きたら、またスサヤに助けてもらうことにするわ。」

もちろん冗談で発したその言葉に、スサヤは逆にさらりと笑顔で答えた。



「・・・ああ、もちろんだ。」



「・・・・・・クス、ありがとう。」










Him of a butterfly and a strange relation

(変な関係。)




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ちょいと長くなってしまいましたね。
息をするようにナチュラルにオリジナルキャラを導入し始めてしまった私です。
そしてタイトル考えるのが面倒になったとか、別にそんなんじゃないんだからねっ←