FF零式 | ナノ


買出しの前に腹ごしらえをしようという案になった私たちは、大通りから小道にそれた路地裏で見つけた小さな喫茶店へと足を囲んだ。

カランコロン、という音を立てて開くドアの先は、見た目より広い印象を受ける間取り。
内装はふんだんに木が使われており、音楽再生にはレコードが使われていて、一昔前の雰囲気を感じさせた。

「いらっしゃいませー。」

客は私たちを含めても片手に収まるほどの数しかいなく、落ち着ける場所だというのが第一印象だ。
店主らしき人はカウンターの奥でコーヒーカップを拭いている。
先ほど声をかけてきた女性のウエイトレスは、少し気だるげにメニューを持ってくると、ご注文はお決まりですかぁ、と・・・これもまた気だるげに聞いてきた。
私もスサヤも差して気にせず、メニュー表を受け取る。

「スパゲティのカルボナーラと冷たい水を。
あ、あと、食後にチーズケーキ。」

「Aセットとコーヒーのブラックを頼む。
・・・ん、何だこれは。」

少し考えた顔で、私にメニュー表を見せる。
彼が指を刺したのはメニュー表の一番後ろ、デザートの覧、チョコレートパフェだった。
まさかとは思うが、パフェというものを食べたことがないのだろうか。

「パフェよ。甘い。
アイス、チョコレート、コーンフレークとか・・・その他もろもろが入ったデザート。
食べたことないんなら、食べてみたら?」

とは言ってみたものの、スサヤが甘いものを嬉々として頬張る図が頭に浮かばない。
スサヤの口から「チョコレートパフェ」という言葉が発せられるのにも違和感があるだろうに、食べるとなると一体どんな絵図になるのだろうか。

「・・・そうだな。何事も挑戦だ。
それと、食後にこのジャンボパフェを頼む。」

「かしこまりましたー。」




「・・・・・・・・・本気(マジ)?」


「本気(マジ)だ。」




* * *




二人が同時期に昼食を食べ終わった頃、お客さんもそれなりにはいってきた。
満席とまでは行かないが、そこそこの人数が入っているのでウエイトレスさんは一人で大変そうに見えた。・・・相変わらず顔は気だるげだが。

あと、残りは食後のデザートだけなのだが・・・ウエイトレスさんがあの状況じゃ、頼むのも申し訳なくなってくる。
スサヤもその考えにたどり着いたらしく、直接カウンターで豆を引いていたマスターに言いに行こうと席を立とうとした。

「お待たせいたしました、ジャンボパフェとチーズケーキでございます。」

そこには先ほどまでカウンターから動かなかったマスターがいた。
音もなくすぐ傍にいたので、一瞬緊張が走る。

「・・・ああ、ありがとうございます。」

「どうも。」

「ごゆっくりどうぞ。」

マスターはさっとパフェをスサヤへ、チーズケーキを私のほうへ置くと、綺麗なお辞儀をして颯爽と去っていった。
物音もしない、しかし近くで見ると妙な威圧感があった。そして無表情。

「・・・さて、頂きますか。」

私の頼んだチーズケーキはごく普通の、狐色にこんがりと焼けたおいしそうなもの。
それに対してスサヤが頼んだジャンボパフェは、明らかに量がおかしい。
下段からチョコレート、バニラアイス、コーンの層が出来ている。その上には大き目のブラウニーが丸々入ったようなもの、それに生クリーム。
さらに中段にはバナナなどのフルーツが盛りだくさん。上段にはバニラアイスにイチゴジャムがかかっており、その周囲には大量の生クリーム。胸焼けしそうだ。
私は何気なく・・・いや、たぶんガン見なんだろうが、スサヤが細長いスプーンをバニラアイスを抉って口へ運ぶところを見た。
あと少しで口に入りそうなところ、スサヤは眉根をひそめ、あからさまに嫌そうな雰囲気を出してこちらを睨む。

「ミスキ、お前は人の食事をまじまじとみる趣味があるのか?」

「あ、わあ!ごめんなさい、つい。
良かったら感想、聞かせてね。」

早足で言い切ると、私は自分の皿の上にあるチーズケーキを一口掬って食べる。
おいしい。程よい甘さと、口に溶けた感触。しつこすぎない味に、私は無意識にそう呟いていた。

「・・・うまい。」

一拍置いて、前方から同じ意味の言葉が耳に伝わる。
顔を上げれば、一週間、これまで見たどのスサヤの表情よりも輝いていた。
過度な表現をすると、【目がきらきらしている】。
それほどまでに、彼のお気に召したのであろう。・・・ん?

私は少し疑問に思い、既に天辺のバニラアイスを半分ほど平らげたスサヤに聞いてみる。

「スサヤ、貴方もしかして、甘党?」

スサヤは豆鉄砲を食らったハトのような顔をして、こちらを見つめる。
少しして彼はスプーンに載ったアイスが液状化して机に落ちるのを、あわてて口に運ぶことで阻止した。

「・・・甘党と聞かれたが、その答えには即答しかねる。」

「あら、どうして。」

彼はいつもブラックでコーヒーを飲んでいるから、てっきり甘いものは苦手だとばかり思っていた。

「幼い頃より、甘いものは女性の食べるものと認識していたからだろう。
甘い物自体、あまり口にした記憶はない。」

・・・そんな理由で。
では、実はコイツは根っからの甘党なんじゃないだろうか。
パフェの上層部を占めていた生クリームは、一般人からしたらもう胸焼けレベル。

「・・・そう、なの。
貴方、バレンタインなんかは沢山チョコレートを送りに来る女の子がたくさんいたんじゃないの?」

「確かに沢山来るな。
しかし、毎年そういうのは全て断ることにしている。
チョコレートの多量摂取は健康に良いとはいえない。
なんとも思っていない相手からチョコを軽々と受け取ってしまっては相手に失礼だと思うからな。」

あっはっは、すこーしイラッ☆ときたことは内緒だ。

「でも、今まで渡してきた女の子たちは貴方のために作ったチョコを受け取ってもらえないことが何よりもショックなんじゃないかしら。
勇気を振り絞って渡しているわけだから、好意を受け取るだけでもうれしいと思うわよ?」

「だが、それでは相手に期待をさせてしまうとは思わないのか?
俺はそっちの方が無責任だと思うがな。」

そういいながらもスサヤはパフェを食べ続ける。
早い、もう中段部分に入ってしまった。
私はチーズケーキの最後の一口を口に入れると、貰うわよ、と断りを入れてパフェに入ったバナナを一つ拝借した。
前方から負のオーラが刺さるが、気にはしない。

「そ。確かにそれも一理あるわね。
まあ私はスサヤのことは知ったことではないし、どうでもいいのだけれど。」

私はパフェの下段に鎮座しているブラウニーをさっくりとフォークでさし、自分の口に頬張る。
スサヤの顔を見れば、すごく切ない目をしていた。さながら捨てられた子犬だ。



そんな、昼下がり。








The butterfly saw.
(彼の)(意外な一面を)






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中途半端な終わり方スミマセン。
クラサメさんは甘党だと私がうれしいです。パフェ食べたい。