FF零式 | ナノ


「・・・すぅ・・・」

意識が浮上し、まどろむ頭で目を閉じたまま暖かさを求める。
人の本能はやはり快楽を求めるもので、諦めが悪いと知りながらもそれをやめることは出来ない。
布団の擦れる音がして、少し動くと肌の温度を吸っていない冷たい布団が触れて身震いを覚える。

暖かいそれに体を寄せると、耳に届く音は静かな鼓動。
とくん、とくんと規則的に流れるその音に、私の脳内はまた眠りに着こうとする。

「ん・・・ハァ、」

意識が沈んだところで、上方から降りかかる掠れた低声と甘い吐息。
少し疑問に思って、顔を上に上げて目を開けて見る。

細く開けた視界に飛び込んできたのは、長い睫毛、顔にかかる鼻息、もう少し近づけばくっつきそうな、端整な顔立ち。

「・・・・・・・・・ぎ、」

一瞬で目が覚める、まだ起ききれていない頭はとっさの事で判断力がかけるが、体は勝手に動いた。

「ぎゃあああぁぁああぁあああっ!!」



ぺちんっ!





*


「ごめんなさい、スサヤ。
一応腫れは収まったけど、まだ痛い?いっそ私を殴ってくれないと気がすまない。」

「いや、大丈夫だ。
それにお前は女だ。戦場でもない限り、男が女を傷つけるなんてフェアじゃない。」

「男が女を差別すること自体がアンフェアだわ!」

「はあ。
では仮に、お前が男に胸を触られたらどうする?」

「再起不能になるまで蹴り倒すわ。」

「それが女だったら。」

「恥かしいけど・・・許す。・・・・・・あ!」

「・・・そういうことだ。」

再び正座でスサヤと向かい合う。
そうか、確かに女の子は傷つけられないわね。


「分かった。じゃあ、この話はこれでお仕舞いにしましょう。
7時半・・・今日は休日だから、私が朝食作る。・・・お詫びとして。」

今日の朝食はそれはもう、沢山あった。


*


「スサヤ、今日の予定は?」

「休日だからな、特に何もない。
・・・休日と言っても、訓練生にはあまり関係ないか。」

そう、候補生には武官による育成があるが、訓練生はほぼ独学で候補生まで上り詰めなくてはいけない。
つまり、言ってしまえば【候補生(エリート)】になるまでが大変なのだ。
候補生になるのには最低でも3年はかかるといわれているのもこのせい。

「じゃあ、休日らしい過ごし方をしない?」





私たちが向かった先は、魔導院を囲む下町。
辺りは特有の賑わい見せていて、パレードでも始まるかのような明るさだった。

「へえ、下町って何処もにぎわってるもんなのねえ。」

「そのようだな。俺も初めてきたが。」

私たちがここに来た目的は、昼食を外で食べるのと夕食の材料の調達。
魔導院でもうっていなくはないが、なにぶんこちらの食品の方が断然安いしまけてくれる。

しかし、休日の所為もあって人が多い。
私は背の高いスサヤの後ろをはぐれないように懸命についていくが、ふと巨躯な男の人が私の通り過ぎた後から姿を見失ってしまった。
魔導院の外のここでおおっぴらに魔法を使うわけにも行かず、途方にくれていると、ふと後ろから左腕を掴まれて路地裏へと連れて行かれる。

「!?」

「やっと見つけた。」

「・・・スサヤ!
ごめんなさい、スサヤ。姿を見失ってしまって・・・。」

今だ身長150の私は、やっぱり背の高いスサヤをうえから見つけることは出来ない。
きっとスサヤも、頭が引っ込んですらいる私をこの群衆の中から探すのは大変だっただろう。

「ああ、俺も不注意だった。
結果的には見つけることが出来たのだから、今回の事はお互い様ということにしよう。」

「・・・うん。」

自分は背が低いと、誰よりも分かっているはずなのに。認めたくない自分がいることに悔しくて目頭を熱くする。
私だもの、こうなることぐらい想定は出来たはずなのに・・・、

「そこで、提案なんだが。」

「・・・?」

「手を繋いで歩かないか?
そのほうがはぐれることもないし、お前も歩くのが楽だろう。」

「え、でも・・・いいの?」

「構わん、俺から誘い出したのにいまさら断るわけがないだろう。」

ぶっきらぼうに放たれたその言葉に、不思議と心がホカホカした。
私はこの時、不覚にもスサヤがパートナーで良かったと思った。

「・・・・・・ありがとう、スサヤ。」


「・・・・・・、フ。
どういたしまして。」








The butterfly laughs.
(大きいのと)(小っさいの)





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gdgdしてすすまんwww
休日デート編(仮)、スタート。完全に小休止の回です。
この連載の訓練生時代も長く続けたいなあ、と思う反面、早く候補生になりたいなあ、なんて思っています。