FF零式 | ナノ

※エミナイベントのネタバレとなります、ご注意を。




「シノちゃんおはヨー!」

「・・・お・・・、おはよ、う・・・。」

それは、私がシノちゃんに付きまとい始めて5日目の事だった。
私はついに、シノちゃんに挨拶を返された。

「〜〜〜もうシノちゃん大好きっ!」

「よ、寄るなあああっ!!!」

私がたまらず抱きしめようとすると、そういってクラサメ君の後ろに隠れるシノちゃん。
スキンシップを取るにはまだ早い・・・か。
それでも、着実に私とシノちゃんの間は縮まってきていることが分かり、嬉しくなる。




――たとえこの幸せが、仮初のものであっても。




 *




「そんじゃ、おやすみーエミナ。」

「ええ、おやすみなさい。」

ルームメイトが床に就いた時点で部屋の明りが消えれば、嫌なことを思い出すから嫌い。
無理やりシノちゃんの事を考えたりして見るけど、しばらくして寝ないといけないと思ってまた無理やり目を閉じた。
けれど、目を閉じれば蘇る。あの惨劇の叫び声が、銃声が、燃え盛る炎の音が、・・・何かが壊れる音が。

「・・・、はぁ・・・ッ・・・・・・。」

床について数分、私は飛び起きてしまった。
今日は寝つきが悪い。
起こしてしまったかなと隣を見てみるけど、起きる気配はなかった。

もう一度寝付こうと試みたけれど、そんな気は起きず、何よりも汗が酷かった。
時刻は深夜を回っていて、そんな時間にシャワーを浴びて怪しまれるのもいけないので、普段使われていない浴場へと足を運ぶことにした。



案の定浴場は深夜ということもあって誰も使用されておらず、安堵のため息をついた。
何より、背中の刻印を隠すために肌の露出を避けていたので、久しぶりのお風呂に心の底で喜んでいた。
・・・だからなのだろうか、警戒用の魔法を施し忘れてしまったのは。

「んーっ、いいお湯!」

お風呂に浸かって肩の荷も下り、いつもの「エミナ」のペルソナをかぶる。
この口調になっているときの自分は、嫌いじゃない。過去の自分を忘れられるようで。
そんなものも、唯の現実逃避でしかないのに。それでも私はこの敵地、朱雀での生活に馴染んで来てしまったのを感じた。
もう、あそこには戻りたくない。すごく・・・痛かった。3年前の、肩の刻印。



「・・・先客がいたみたいね。」

「ッ!!?」

干渉に浸っていた最中、少し遠くの方から響いた一つの声。
私は驚き、急いで背中の刻印を隠すため肩まで湯に浸かる。

「・・・、その声、シノちゃん?」

「エミナ・・・・・・。」

よくよく見てみれば、その声の主はシノちゃんだった。
どうしてこんな夜更けに、なんて考えていたらさっきの胸をうずいていたもやも晴れたことに気づく。
だけど、次の瞬間・・・私の思考回路は止まった。

「・・・背中の、刻印。」

お風呂に浸かっているというのに、私には、嫌な汗が体中から吹き出るのが分かった。
嫌だ、戻りたくない。またあの、窓のない部屋には。あの罵声の毎日には。いつ死んでもおかしくない日常には!

「・・・!!
何・・・の、話?」

「・・・・・・そうか、貴方は・・・皇国軍の密偵・・・なんだね。」

「・・・・・・ッ!!」

生理的な涙が出る。
ちがう、やめて。それ以上は私がここにいられなくなっちゃう。

「知ってるよ。聞いたことがある。
体のどこかにある刻印は、皇国印。
牛とかにつける焼き鏝なんかより、もっと痛いんだよね。」

「・・・!ち、ちが・・・っ、!」

そういっている間にも、どんどんと近づいてくるシノちゃん。
感情がないような目で私を見ているような気がして、それだけで背筋がゾク、とした。

「その皇国印は・・・魔術なんかじゃない。
刃物で・・・彫るんだよね・・・・・・?何時間も使って。」

ついに私の後ろには壁。
たったの1週間のこの幸せなときが、お天道様の下を歩けた毎日が・・・走馬灯のように駆け巡った気がした。
それでもまだ、ここにいたい。それは罪だったの?
もう、目と鼻の先まで来ていたシノちゃんは、無表情ゆえにとても怖かった。

「・・・ひ、
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、なんでもしますから!だからお願い・・・!!」



―――でも


ふわり、と私を抱きしめてくれたのは、紛れもなく眼の前のシノちゃんだった。
シノちゃんは震えながら頭を抱える私に向かって、こういった。


「よくここまで堪えてきたね。」


その一言で、抱きしめてくれた腕で、暖かいぬくもりで。
私は・・・やっと救われたような気がした。


涙が出た。

冷たい涙じゃなくって、暖かい涙。
嗚呼、こんな気持ち、何年ぶりかな。

「・・・ふ、
・・・う、・・・あぁ・・・うあああぁあっ!!」

「よしよし。」

大声を出して、泣いた。
こんなに泣いたのは・・・何年ぶりなんだろう。
ここが離れでよかったなあ、なんて思いながら。シノちゃんの小さな手で涙した。


 *


「・・・私、正体を知られちゃったからもうここに入られないなぁ・・・。
短い間だったけど、ありがとうシノちゃん。あなたにあえてよかった。」

「ふふ、何いってんの。
私は貴方を軍に売る気なんてさらさらないわよ?」

「え・・・そんなことしたら、シノちゃんが・・・!!」

私のためにシノちゃんが罰せられるのなんて、真っ平御免。
だって、誰かをこんなに大切に思えたのは初めてだったから。

「私なら大丈夫よ。
【シノ・ミスキ】個人は【エミナ・ハナハル】の友達なのでしょう?」

「・・・!」

「それに・・・魔導院の掟、第2条。
【ここ魔導院の生徒は、いかなる自治、団体にも干渉されない。】
つまり貴方は、最低でもここにいる間は何処の干渉も拒絶できる・・・魔導院から守られる、れっきとしたここの訓練生なのよ。」

所詮は唯の屁理屈だけどね。
そんな言葉を吐きながら悪戯な顔をする彼女に誓った。
もう私は貴方に嘘をつくことはないでしょう。



「・・・・・・っ、ありが、とう・・・!!」




A emissary cries.
(せめて、貴方だけには)(本当の私を)






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長くなってしまってスミマセンでした。彼女の回はどうしても入れたかったんです・・・!
もう誰夢かわからなくなってきていますが、エミナの過去には色々と想像を膨らませていました。
そして最後までスパイ、をemissaryにするかimformerにするか迷いました。(spyという選択肢は存在しなかったw)