ミスキが部屋を出て行き、俺も木刀とタオル、水を片手に部屋を出、訓練生用宿舎の裏庭へと足を進めた。
裏庭へついた頃には陽は上がり始めていて、空の半分をグラデーションしながら赤く染めてゆく。
俺は基礎体力が衰えないように準備運動をし、木刀に特別な加工(重量増加)をしていつものように素振りのノルマ200を終える。
次に昨日ミスキのしていた「セイザ」とか言うものを試して見る。
しばらくすれば足は満遍なく痺れを感じ、足の腱が悲鳴を上げるのが分かる。なるほどこれは修行になりそうだ。
俺はそのままの体制で目を閉じて視覚をさえぎり、聴覚に全身系を集中させる。
感じることが出来るのは、耳をかする風の音や木々の葉の擦れる音、さらには鳥のさえずりというありふれた音の中で、その音たちのさらに先を探す。
これまでの修行でわずかに聞き取ることが出来たのが遠くの水音。最終目標は真っ暗な状態で戦闘が出来るようになることだ。
音のさらに先を感じる。音の大きさで、遠近を見極める。
そして・・・・・・・木の葉の近づく音。
「フッ!」
すかさずその場所にひとかけらの氷の粒を打ち込むが、しかしその技は2センチほどずれて遠くの壁に小さな霜を作る。
「・・・・・・・・・。」
「ヒュウ、すごいじゃない。」
「っ!」
自分の数メートル後ろから突然声をかけられて、本気で焦る。
芝生を上を立ち尽くしながら軽く拍手を送る声の主は、ミスキだった。
集中していたにもかかわらず人の気配にも、芝生を踏む音にさえ気づかなかった自分を攻め立てる。
「いつからそこにいたんだ?」
「ん、今さっき。
面白いことしてるなと思ってね。」
「そうか・・・っう・・・ッ!」
俺はセイザの体系を崩し、立ち上がろうした。
だが足を一歩踏み出そうとしたところで、予想外の痛みが足首から全身を駆け巡り、言葉にならない悲鳴をあげる。
「あーあーあー・・・大丈夫?
素人が正座を長時間したらそうなるに決まってるでしょ。」
まったく、と言いながら俺の痙攣を起こした足首に手をかざしたミスキは、回復魔法で俺の足首の痛みを奥に引かせた。
次は気をつけてねという言葉に礼を言いながら、今度こそ立ち上がり、ミスキと向かい合う。
「まだ時間はある、軽く一戦交えて見ないか?」
その提案に少し目を瞬かせたミスキは、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべながら言い放つ。
「それはいい提案ね、乗ったわ。
普通に交えるだけじゃつまらないから、夕飯をおごる・・・でどう?」
「承諾した。」
種目は体術。
それは武器を持たずに・・・いや、体と言う武器を使っての戦い。
前回のテストでの一戦はぎりぎりのところで俺の蹴りがミスキの足よりも長いことからあたり、それが勝敗の決め手となったに過ぎない。
実際のところ、技術力としてはミスキが2枚ほど上手なのだ。それを男女の差が補っているだけの事。
お互い5メートルほど離れて向かい合い、お互いを見据える。
あたりの木枯らしの擦れる音が耳に入るが、それは先程よりも遠くに聞こえた。
そして、一発触発の緊迫状態の中・・・・・・
ピチャン
「ハァッ!」
「ッ!」
遠くの水音を察知して、先に動いたのはミスキだった。
彼女は前傾姿勢のまま正面から隙を作らずこちらへ突っ込んで行き、距離を一気に縮めたと思ったら容赦なく頭部を狙って回し蹴りを繰り出す。
とっさに防御の姿勢をとり手を交差させるが、彼女の足には重りが付いていたのか、想像以上に重い蹴りが両手を襲う。
回し蹴り繰り出したその2段目の右足をとっさに掴み引き寄せようとするが、すかさずもう一方の足は俺の手に向かって蹴りを繰り出す。
俺は手を離さずを得なくなったので変わりにミスキの腹に向かって中段蹴りを決め込むが、確かな感触は得られないまま宙返りをして距離を離されてしまった。その姿はあまりにも身軽で、さながら猿か何かかと一瞬考えた。
「へぇ、さすが!
これ、膝を付いたら負けだよ・・・ねッ!」
「ああ、そうだな。」
その会話の間も俺は着地したばかりのミスキの元へ走り下段を狙うが上方に跳ねられ、空中を利用して突きを繰り出すが逆にその腕につかまる。
彼女はくるりと一回転し、床に足を着けると同時に俺を方に背負って投げる、このモーションまで入ると回避不可能なので、着地する瞬間に手を芝生につけて逆立ちの勢いで体制を変え、さらにそこから足払いを狙う。
そこまで反応が追いつかなかったのか、ミスキはそこで確かに転びそうになるがその瞬間手を地面につけ、腕の力だけでばねのように体を跳ね上げて空高く飛ぶ。
「セイヤッ!」
「!?」
頭上に来たと思い上を向けば、空の明るさに一瞬目を細める。だが、それが大きなミスだった。
頭上から真下へ倒れこんできたミスキは俺の肩につかまり、真下へと体重をかける。
いきなりの予想外な重力に足は耐え切れず、膝を付いてしまった。
「やった、私の勝ち♪」
「・・・、見事だ。
空の明るさを使うとは、考えたものだな。」
もともと膝を付けたら負けという規則だったので、そのためにはお互い手段を選ばない。
戦場もスポーツではない。誰が卑怯かそうではないかなど、命の前では通用しないのだ。
「昔、同じ戦術で負けたからね。・・・・・・お父さんに。」
「ほう、ミスキの師は肉親なのか。
蹴りの重みも戦闘センスもそこらの訓練生とは格が違う。良い師を持ったな。」
「ふふ、本当にね。
スサヤも戦闘センス、かなりあるわよね。何よりもとっさの判断力が優れてる。」
「褒め言葉として受け取っておく。」
「あら?ふふ、本当に褒め言葉よ?」
そんな会話を繰り広げながら自室へ戻っていく。
時刻は6時半過ぎ。すがすがしい心持で魔方陣へと向かう。
The death looks up at empty.
(君の隣が)(心地よい)
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戦闘シーンって難しい。
とても表現しづらいです。文才が欲しい。