FF零式 | ナノ

まだ場所もなれない自室へと戻る途中、時計を確認する。
時刻は7時を少し過ぎたところだった。

先ほど決めた規則と照らし合わせてもシャワーを浴びれる時間はまだ早いと言うのに、部屋への歩みを止めない俺は少しどうかしているかも知れない。
食堂にあった自販機で自分用のコーヒーと・・・押し間違えたミルクティーを手に持って歩く姿は自分でも想像しなかった。
魔方陣から2階へ上がり、一番端まで歩く。
1階の17号室は連絡通路があるが、2階はトイレも何も設置されていないこともあり、一番不便な部屋だともいえる。奨学金でここに入っている身からすれば文句は言えまい。

部屋の前まで来ると、とりあえず新たな問題が発生しないためにノックをする。
5秒ほどして音沙汰もないのでドアノブをまわして入る。(魔法で本人認証式自動ロック)
部屋の中は電気が付いてないこともあり薄暗く、窓も締め切っているため空気の揺れが分かる。
ミスキは何処だと思いベッドの方へ視線を向けると、毛布をかぶって隅でうずくまっているミスキを見つけた。
ベッドの方まで近寄って初めて人を確認したのか、布団を剥いでこちらに顔を向けた。

「スサヤ・・・?」

「ああ、俺だ。
明かり、つけるぞ。」

無言を肯定と受け取り、眩しくない程度の電気をつける。
こちらから伺えるミスキは、見るからに落ち込んでいるようであった。

「ミルクティーだが、飲むか?」

「・・・・・・私のために?」

「ボタンを押し間違えただけだ。」

「・・・クス、貰うね。」

親の教えがいいのだろう、カンを手渡すとベッドからでてわざわざリビングのソファに座るミスキは、しばらく無言でミルクティーを飲んでいた。
俺も共にコーヒーを飲み、残りが半分ぐらいいったところでミスキがポツリと話し出した。

「いきなり食堂飛び出しちゃったし・・・
・・・ハナハルさん・・・怒った、よね・・・・・・。」

「いいや、そんなことはない。」

むしろ明日から覚悟しておいた方がいい。
この言葉は胸のうちだけにとどめる。

「そう、かな・・・。
私、この魔導院の近くの宿からここに通ってたときも友達できなかったし、
地元には大人か10歳下の子供しかいないし・・・・・・友達の接し方が分からないんだ。
あ、はは・・・・・・こんな歳にもなって恥ずかしいよね。」

「・・・・・・・・・。」

「周りはあまり話しかけてくれないし、話し方つっぱっちゃうし・・・
自分から話しに行こうとしても・・・同年代の子とどう接していいか分からなくて」

それでルームメイトとして部屋に来たときあんなに丁寧に挨拶してきたのか。
男と女で態度が違うと言うことはもうつっこまない。

「・・・・・・ふぅ。
ごめんなさい、こんな話しして。
つまらない戯言だと思って忘れて頂戴。」

そういったミスキの口調と顔は、いつもの自信ありげなものに戻っていた。

「さぁ、・・・あ、もうこんな時間!
ごめん、すぐシャワー浴びるから!」


「・・・無理して友達を作ることもないんじゃないか?
仲間と言うのは・・・作ろうとして作るのではなく、自然になっているものだと俺は思う。」

洗面台まで歩いていく後姿にそう声をかける。
友達と言う友達がいない俺が言っても説得力がないかもしれないが、少しでも助言となればいいと思った。
すると背中を向けた彼女が笑う気配を感じた。

「・・・・・・ありがとう。」

バタンという音が静寂を呼ぶ。

「・・・礼には及ばない。」
















「――98・・・99・・・100っと!
ふぃー・・・じゃ私はそろそろ寝るわ。
スサヤは?」

「ん、ああ。俺はもう少し起きている。
すまない、電気は消しておく。」

「いえ、別にこのままでいいわ寝れるから。
・・・・・・夜中に何かあったらごめんなさい。
今のうちに謝罪しておくわ。おやすみなさい。」

「・・・ああ、良い夢を。」

シャワーあがりに柔軟体操で体をほぐし、腹筋・背筋・腕立てを100回ずつをこなしたミスキは、疲れをバネにするかの様に狂人的なスピードで寝息を立て始めた。

20分ほど経っただろうか、読んでいた本の区切りのいいところまで行き、本を閉じる。
部屋の全ての明かりを消灯し、自分も床についた。




布の擦れる音が聞こえたような気がして眼を覚ますと、隣で眠っているはずのミスキがいなかった。
トイレにでも起きたのだろうと思い寝帰りを打とうとし・・・

寝帰りを・・・

「・・・・・・?」

ふと体が何かに固定されているような気がして、首だけ後ろに向く。
そこにいるのは、トイレに起きていたのかと思ったミスキ。

「・・・・・・・・・。
ミスキ。起きろ、ミスキ。」

「・・・・・・んぅ・・・すー。」

おかしい、失礼を承知に結構揺さぶっているのに、一向に眼を覚ます気配がない。
だんだん諦めてきた俺はとりあえず自分はあと3時間、床で寝ようという結論に至る。
そしてベッドから出ようとし・・・
またしてもなにかに止められる。下を向くと、ミスキの手が腹に回っていて身動きが取れなかった。
とろうと試みる。もうすぐではずれr・・・

「・・・、さむ・・・い―・・・。」

眼は閉じている、眼は閉じているミスキはベッドから起き上がり(暖かさを求め)俺のほうに迫ってくる。

「ぅあッ・・・!」

振り出しに戻ってしまった。
ただ一つ違うのは、俺とミスキが床で寝ている、と言うこと。
ほぼ押し倒された状態だ。床に落ちた衝撃でもミスキが起きる気配はない。

「・・・・・・はぁ・・・。」

もう、諦めてミスキの起きるまで床にいよう。
このままの体制では明らかに誰か来た時にまずいので俺は起き上がる。
腰に巻きつくミスキは、それはもう幸せそうに寝ていた。





The death gets impatient.
(なんなんだ)(この状態)