FF零式 | ナノ



傾いた陽が陰険な雰囲気のこの角部屋を赤く染める。
規則性のある時計の音が静かな部屋の空気を揺らし、それがさらに時間を長く感じさせる。

俺は今、身に覚えのない冷や汗を感じている。
特に何をしたと言うわけではない。
もっぱら目の前に座る彼女の放つオーラが原因だ。
・・・この状態を説明するには、少し前に遡る。





 *




「俺もこの部屋だ。」
彼女は俺の発言を聞くなり絶叫し、止んだかと思えば走り出して宿舎の管理人(武官)に問いただしに行ったのだ。
結果として告げられたのは、曰く『ペアとの私生活においてお互いを高めあえ』との事。
だが聞いたところ、男女ペアとなったのはミスキと俺の所だけ、後は同姓同士のペアらしい。

「どうして私たちだけ異性ペアでの同室なのですか!
納得いきません。確信的な理由の提示を所望します!」

「・・・はぁー。
一に定員ギリギリでなおかつ男女共に奇数。
二にお前らは主席。間違いを起こすようなことがないと信用しての事。
最後に・・・お前らは他の生徒とは別に奨学金でここにいる。
無料で住居があって食事が付いてんだ。・・・文句は、いえねぇよなぁ?ん?」

「ぅぐっ!」

「・・・・・・。」

「ってなわけだ。タダで住まわしてもらってる代価だと思え〜。」




 *




そういってひらひらと手を振りながら事務室に戻っていく武官に何も反論することが出来なかった俺たちは、今の状態に到った。

「はぁ・・・沈黙していても埒が明かないわ。
取敢えずこれからの事を考えましょう。

シャワーは7時までは私、8時からは貴方。
寝床はいいとして・・・休日のご飯ね。料理は出来る?」

ふと、ため息をついたと思えば先程までの殺伐とした気配が消える。
ぶつけ場所のない怒りはあるだけ無駄だと悟ったようだ。
今後の事についててきぱきと決めていく彼女は、やはり主席な事だけある。

「人並みには出来る。」

「じゃ、当番制にしましょう。
ベッドは私が窓側でいい?」

「ああ、問題ない。」

「他に質問は?」

「これと言ったものはない。」

「じゃ、後はそうね・・・・・・・・・あ。」

「?、なにか問題があったか?」

淡々と物事を進めていったミスキだったが、急に黙りだしてはこちらにちらちらと目線をむける。
一言で表すなら、「親に怒られそうだから秘密にして部屋で飼っている犬の今後について切り出そうとする子供」だ。
大変分かりにくいかもしれないが、それ以外の形容の仕方は知りえない。

「も、問題と言うほどのものではないけど・・・その・・・、
私、寝ている間の記憶がなくて・・・って、それは皆そうかもしれないのだけれど・・・」

「つまり?」

「つまり・・・迷惑かけたらごめんなさい。
あと、朝は近づかない方がいいわ。絶対に。」

「・・・・・・肝に命じておく。」

いったい、どういう意味だろうか?
とにもかくにも、近づかなければいいだけの話だ。

「じゃ、食堂行きましょう?
おなかすいたわ。あなたは一緒に食べる友達できた?」

「・・・・・・いや、いない。
ミスキも同じなら、同行しても構わないか?」

一瞬、脳裏に変質・・・・いや、何も過らなかった。

「ん、別にいいわよ・・・お互い悲しいわね。」



食堂へ付くと、もちろん友人と食べている者もいるが、早速ペア同士で食べている生徒が多いようであった。
俺たちは混み合った食堂で何とか二人分の席を確保しようとするが、なかなか見つからない。来るのが少し遅かったか。
手元にある夕飯が冷めなければいいのだが。


「そこのお二人さーん!」


「あ、スサヤ。あそこ空いたわよ。」

「だがもう一方の席にバッグを置いたのを見た。
席を取っているのだろう。」


「おーい、そこ!」


「さっきから誰かを探している人がいるみたいね。
早く気づいてあげればいいのに」

「同感だな。」


「おおい!そこの主席二人組!!
貴方たちを呼んでいるのよ。」


「「何?/だ。」」

「ハァ・・・やっと振り向いた。
そこの席、私の隣だけど、つかっていいわよ。」

「あら本当?
じゃ、遠慮なく使わせてもらうわね。ありがとう。」

「感謝する。」

斜め右の席に腰を下ろすと、自己紹介が始まった。
名乗りを上げようとすれば、どうやら彼女ははじめから俺たちの事は聞き及んでいたようだ。

「私の名前はエミナ。エミナ・ハナハルよ。
ペアの人は友達を誘っちゃったみたいで、心細いけど一人で食べようとしたときに貴方たちが来た・・・ってわけ。
ここであったのも何かの縁だし、友達としてこれからよろしくネ。あと、私のことは名前で呼んでいいたら。」

「よろしく頼む、エミナ。」

「・・・・・・。」

「あれ?シノちゃん?」

急に向かいに座るミスキが反応しなくなり、うつむきがちに眼を泳がせていた。
どうしたのだろうか。

「どうかしたのか、ミスキ。」

「・・・いきなり友達っていったのが馴れ馴れしかったかな?」

友達と言う言葉に微かに反応したミスキは、夕飯のカレーを2口残して席を立った。

「・・・私、先に部屋に戻るね。」


「え!ちょ、シノちゃん!?
・・・・・・あー・・・。」

部屋まで駆けて行ったミスキに、追いかけるのもおこがましいと思いしぶしぶ食事を再開する。
右斜めに座るエミナはあからさまに肩を落としていた。

「クラサメ君、私の態度・・・気に障ったかな?
実は私、今回の試験で魔導院に入ったばかりなんだよね。」

「そうだったのか。そう気を落とすものでもない。
別に俺にとっての印象は悪くなかった。」

「そっか・・・うん、そうだよね!
よーし、明日からガンガンアピールしまくるぞー!」

まっててねシノちゃーん!なんていう声を聞きながら、
それは悪印象だぞと言う言葉が喉元まで出るが、水と一緒に飲み込む。


そして俺は、部屋へとシャワーを浴びに戻る。







The death is observed with butterfly.
(あいつの様子を見に行くわけでは)(決してない)