同窓生 | ナノ

同級生


期末が終わった12月の中旬。引越しが済んでストーカーの気配も消えるも、どうやら勤務先の最寄駅も割れてしまっているようで、高校から駅までの間、後をつけられている気配はつきまとっていた。いつの間にか気配に敏感になった私は細心の注意を払って電車に乗り込み、車両を何度も変えては乗り継ぎをする毎日を過ごしていた。まだ最寄駅までは特定されていないみたいだけど、ただでさえ学校で気を張っているというのに、ここに来てまで精神をすり減らさなければならない事実に、嫌気がさしていた。まあ、最悪最寄を特定されても、私が引越し先に選んだ街は元地元。下町特有の入り組んだ道の多い赤塚区に、地の利はこちらにある。

ストーカーの件があってから、なるべく左手の薬指には指輪をはめて行動するようになった。なくしそうで怖いけど、過剰なほど気配に敏感になってしまってから、外出中にこれをしていない方が強くなっていた。
チラチラと後ろを振り返りながら、自宅の最寄駅の商店街を歩いて行く。大丈夫だと言い聞かせながらも、最寄がバレたら、もう、お終いな気がしていた。一年間という非常勤講師の務めは最後まで責任を持って務めあげたいし、優介くんにまだストーカーが続いていると言えば、福岡に連れ戻されるのは間違いなかった。それだけは避けたい。

「らっしゃーい……あれっ!?」

「?」

「……まさか、小日向?」

八百屋の店主さんに、いきなりの名前を呼ばれる。こんな人と会った覚え……あ、

「ヒロくん?」

「やっぱり小日向!?
綺麗になってたからびっくりした!」

小学校の頃から同じ学校だったヒロ君は、実家が八百屋だと言っていた気がする。お店、継いだんだ。どこか面影のあるヒロくんの顔に、思わず顔がほころぶ。声が大きいのは相変わらずのようだ。

「久しぶりだね!八百屋、継いだんだ!似合うねぇ!」

「小日向こそ、こっち帰ってきてんなら教えてくれよ!
マンション、引き払ったって聞いてたけど。」

「うん、最近越してきたんだ!まさか会えるとは思ってなくて、誰とも連絡とってなかったんだけど……。」

昔と変わらない軽快さと声のボリュームで、商店街のおばさんたちも注目する。「今日の夕飯決まった?」と自然な流れで野菜を買わせようとするヒロくんは、昔よりもずっと勧め上手になったようだ。野菜を選んでもらいながら、昔話に花を咲かせた。

「ミホちゃんと上野くん、結婚したの!?
すごいね、いつ?」

「だよな!中学の卒業と同時に付き合い始めて、そのまま去年ゴールイン。結婚式にいろんなやつきてて、そっちでもプチ同窓会みたいになってた。」

「へー!行きたかったなぁ。」

「小日向の連絡先教えてよ!今月の26日、中学の3年A組のメンツで同窓会しようって話してんだよ。小日向きたら嬉しいやつら、いっぱいいるし。」

明るく笑うヒロくんは相変わらずで、「そうかな?」と笑うと、「もちろん俺も含めてね☆」と返ってくる。若いなぁ。

「じゃあ、お邪魔しようかな。仕事があるから途中参加になっちゃうかもしれないけど……。」

「全然大丈夫だって!
俺もその薬指について詳しく聞きたいし…。」

「あはは、わかった。じゃあ、ありがとうヒロ君。」

「まいどあり!」

連絡先を交換した後、おまけをしてもらったヒロ君家のお野菜を手に、久しぶりにいい気分のまま家に帰る。

初恋のあの子もそれに来るのかな、なんて、考えながら。