03
「仁王、今日の朝は英語の抜き打ちテストがあるみたいですよ?」
「・・・・おまえさん、なしてそげなことしっとるぜよ・・・・」
「へへへっ、企業秘密なのです!
あ、もう校門だ。又教室でね、仁王!」
いつものように日常会話をして、お互いの部活へと向かう。
だが、学校ではさして一緒にいるわけでもない。
精々事務的なものやクラス行事どきしか話す機会はない。
お互い部活があるし、放課後、帰宅の時間帯も違う。
いわば、他人状態だ。
だが、それを願ったのは紛れもなく自分だ。
自分の捻じ曲がった性格が、ハルを傷つけた。
『ま、さ・・・・君?』
『だから、それをやめろといっとるぜよ。
いつまでも子供の頃のままではいられんじゃろ。』
『・・・・・、わかっ・・・た。
でも、せめて・・・朝。朝だけでいいから、一緒にいさせて?』
「お、仁王じゃん。ちっす」
テニスコートへ向かう間、物思いにふけていたところに丸井。
このときばかりは助かった。割と空気は読めるヤツだ。
「ああ、ブンちゃんか。おはようさん。」
「む。なーんか、上の空だよなー今日の仁王。」
「ちぃと考え事をしていたぜよ。」
「へぇ、どんな?」
ここからはいつもの俺だ。
「ニィ」と効果音が付きそうな笑顔で一言。
「今日はどんな方法でブンちゃんをいじろうか・・・かもしれないのぅ?」
「うげッ・・・、聞かなきゃよかったぜ。」
「プリッ
ちなみにブンちゃん、今日は科学の抜き打ちがある見たいぜよ」
「え・・・それ、マジか?それともお得意の詐欺?
ほんっとお前って、わっかんないよなー」
「さあのう・・・ジュース1本でどうじゃ?」
「良い性格してるよ、ホント。」
「ククッ、褒め言葉じゃのぅ」
「おはようございます、お二人とも。
丸井さん、今朝は珍しくお早いのですね。」
「おお、はよ。俺だっていつも遅刻してるわけじゃねぇよ」
「そうじゃのう、7回に1回は時間前にきとるぜよ。」
「うわ、嫌味ー。そういう仁王はなんで毎日遅刻せずに来てるんだよ。
お前のキャラじゃ、ぜってーサボってそうなのに。」
「私もそれは前から思っていました。朝に、何かあるのですか?」
「そりゃ、ブンちゃんと違ってまじめだからのう?」
「おま、なんなの!?」
中学の連中で自分とハルが幼馴染だと知っている人は極少数だろう。
親同士の中で遠方にある私立のここに来たのだから。
当時の俺も俺で、ハルと一緒ならどこでもよかった。
でも、歳を重ねていくごとに綺麗になっていくハルを見て、
ハルの周りによっていく男共を見て、焦った。
そのときに気づいた自分の気持ちと心に、無理やりふたをして。
いつかハルを、自分のせいで困らせるときが来ないように。
そんなもの建前だ。
いつまでも【幼馴染】なんて、最後まで耐え切れないから自分から離れていったんだ。
その、自分の意地のためだけに今、ハルを傷つけている。
こ れ が 、 俺 の 望 ん だ こ と ?