庭球 | ナノ

「ほな紹介すんで〜!
まずは俺、部長のヒラゼンこと3年平善之や。
チョコシュ〜」

「それをいうなら「よろしゅ〜」や!
しかも何でクリームやのうてチョコやねん!!
えー、俺が副部長のハラテツこと2年原哲也や。
テニスの異名は時機に教えたるわ。」

その一連の会話で、緊張していた一年生は一気に緊張をほぐし、場を和ませた。
なるほど2,3年生が期待に胸を弾ませるような表情をしていたのはこのためだったのか。

「他の先輩の名前は今後覚えてもらうとして・・・。
2,3年も喜べや!今年はなんと、マネージャーが入ったで!」

『お・・・おおおおおお!!』

上級生の喜びようがすごい。
たとえばある人は涙目にやっとあのむさ苦しい部屋を・・・と換気に満ちている。
ある所は集団で胴上げをしていた。別に何にも勝ってはいない。
喜び方はさまざまだが、歓迎されていることは確かなようで一安心だ。
蔵はドヤ顔でそれを眺めていた。お前は何もなしていないだろう!

「んじゃ、黒川!」

「はい。」

私は一年の最前列角から抜け出し、部長の横へ。
衆人環視の中、多少、ほどしか緊張しない自分に少しだけ苦笑いを零す。
皆男か、と落胆するのが見えるが、彼らはこのテニスコートの何処に女の姿を察知しての発言だろうか。

「マネージャーをやらせていただくことになりました、一年黒川です。
テニス経験はありますので、雑用と同時に部員のサポートもして行きます。
一年間、どうぞよろしくお願いします。」

って、言えっていわれました。部長に。
最後に綺麗な笑みで一つ笑う。
(私はこれを「悩殺スマイル」と呼んでいる。他の人が呼んでいた。)
別に女の子を落とすためではなく、あくまでもなかよくしましょうの意を込めて、だ。

暫くの沈黙の後、誰かがポツリと呟いた。

「・・・・・・かわええ、」

「あぁ・・・何でやろう・・・。
なんや分からんけど・・・惚れてまいそう!!」

「美人やなー。」

「女々しいやっちゃ」

「男?女?どっちやねん」

口々と私への評価を漏らす中、部長は恨めしそうに「自分、キャラ立っとるやないかぁ・・・。」と言ってきた。
これは私が悪いのだろうか。いいや、けしてそんなことはない。
美形に生んだ親を恨んでくれ平先輩。特に、ニュースキャスターの方の黒川をな。

「やかましい!
まぁそういうわけやから、お前ら・・・襲うんやないで?」

原先輩のその一言は、場を沈ませるどころか吹雪が吹くぐらいの冷たい声で言った。
何故この人は冗談をこんなに真面目な口調で口に出せるのだろうか。

『は、はい!』

そして平先輩・・・何故部長の貴方まで敬語で従う。

まったくこの部活は・・・・・・・・・漫才部か。



*



自己紹介が終わると、いよいよ部活動の開始だ。
今日は新入生歓迎会と浮かれた上級生の叩きなおしということで、柔軟体操の後腹筋、背筋、腕立て、スクワット、を50回ずつして四天宝寺を20周というメニューをやらせて終わった。
しかもストップウォッチを使って時間まで計るという。
なるほど、部員の名前と顔を次までに全員覚えて来いというのはこういうことか。
ストップウォッチを軽く8つ首からぶら下げる私は、さすがにマネージャーをもう一人よこせと叫びたくなった。
あれは確かにやめたくなる。

私は蔵と一緒に帰ろうと先に着替えを済ませ、蔵とは別にある人を待っていた。

「お先に失礼します、お疲れさまでした!」

大声でいち早く部室を出たのは、金色の癖のある髪の毛を揺らした忍足謙也であった。
さすが見込みどおりの早着替えだ、と半ば感心しながら私はその少年をなるべく自然に引き止めようとした。

「お、マネージャーやん!
これからよろしゅうな!お先。」

・・・ら、こちらが呼び止められた。

「忍足謙也君?」

フルネームで呼ぶと、走る足を止めて近寄ってきた。
数センチほど私のほうが身長が高いので、視線に黄色い髪の毛が入ってやけに気になった。

「な・・・なんで俺の名前しっとるん?
まさか・・・足の速い忍足謙也伝説が既に・・・・・・!」

「まさか。まあ・・・前から知っていたことには変わりはないんだけどね。
改めまして、俺は黒川ハル。」

「お、おん・・・。
俺ら、どっかで会った?」

「ははっ!なんだよそのナンパみたいな言い方。
でも・・・そうだな。会ってるよ、昔。だが自分で思い出せ。」

「なんやねんそれ」

謙也はそこまで喋ると、次に蔵が部室から出てきた。
酷く急いでいたようで、学ランのボタンは全開だった。
・・・まぁ、私のために急いでくれたんだろうけど。
本当に微笑ましいことだ。

「ハル!お待たせっ」

「ああ、行こうか。
じゃあな、忍足謙也。」

「・・・っ、謙也でええ!
ほなまた明日!」

「・・・・・・なんやの?あいつ。」

「ん?
そうだな・・・面白い奴だぞ。
きっとお前と仲良くなれる。」

「・・・・・・さよか。」