庭球 | ナノ

ここは氷帝学園。
俺の城だ。

ここにいる奴らは俺に逆らわないし、逆らおうともしない。
現に俺を恋慕うメス豚どもは今日も見渡す限り・・・

「キャー!跡部様ーー!!!」
「おはようございます、跡部様!!」
「跡部様愛してます!!」

・・・・フッ。

やはりメス豚どもはみんな俺に夢中だ。
ま、俺様が本気になれば落とせない女なんていないだろうな、ハァーッハッハッハ!!!

心の中でそう思っていると、目の前にメス豚が立ちふさがり、俺をまっすぐ見据える。
推定167cm。漆黒の髪、宇宙のような吸い込まれる黒曜石の瞳の女。
俺に凄まれて怯えないなんて、強気なやつは嫌いじゃない。

「あーん?俺様の前に立ちふさがるなんて、どういうことかわかっているんだろうな?」

5mと離れていない距離から聞こえなかったわけじゃないだろう、だがそいつは逆に眉を寄せて俺様に指を刺してきた。

「跡部景吾、あなたいい加減にしてもらえないかしら。
うちのバスケットボール部は御宅ら男子硬式テニス部の隣にある所為で毎日すごく迷惑してるって言うのに、
今度は何?第4体育館を潰す?いったい何考えてんのよ!あそこには氷帝バスケ部の伝統が詰まってるの!!」

・・・ああ、思い出した。こいつは3年の黒川ハル。
氷帝学園のの弱小中の弱小で男女混合にまでに成り下がったバスケットボール部を3年で全国大会まで上らせた、俺の次に有名な奴。実物で見るとはるかに美女だ。
だが・・・

「ハッ、あんな汚い体育館で何ができるって言うんだ。
俺様が直々に新く便利にリフォームしてやろうッつってんだろうが、あーん?」

「それが余計なお世話なのよ、先代が引き継いできたあの場所だからそこいいの。
あなたの辞書に伝統と言う言葉を加えることをお勧めするわ。」

「ほう?俺がどういう存在か知っていてそういう口をたたいているのか。
いまさら悔やんだって遅すぎるな、気づいたところでいまさら戻れねぇぜ?」
      バ ス ケ 部
「上等よ。あの場所を守れるならなんだってして見せるわ。」

「フッ、その言葉期待してるぜ、せいぜい赤恥かかねぇようにな。」

「ふん、それは私の台詞だわ。」







その日から、黒川ハルへのいじめが始まった。
普段はそういう行為はとめるべきだが、後がたたないので放置。
弱いものがつぶれる世界なのだ、むしろそれが当然の理。
もう3日が経つが、いまだ懇願の言葉はない。なかなかしぶといようだ。

そう思っているとき、突然生徒会のドアが勢いよく開く。
そこに立っていたのは、今かとまっていた黒川ハル。
無意識と口角がつりあがる。

「あーん?どうした、怖気づいて懇願しに来たか?
今なら額をソコにつけて土下座でもしたら許してやらねぇことも無いが?」

「そんなことするわけ無いでしょう・・・・・・といってもいられない状況になったわ。
この学校の生徒は悪知恵だけはよく出るようね。

私と勝負しなさい、跡部景吾。」

「ほう?俺様と戦ってどうするつもりだ。
勝てたときの願いぐらい聞いてやる。」

「私が勝ったら、体育館をそのまま残して。
負けたら私をこの学校から退学させるなり好きにしていいわ。」

「フッ・・・・・乗った。
勝負種目はお前の得意分野のバスケでいいぞ。」

「あら?それじゃああなたが不利じゃない。正々堂々別の競技でやりましょう。」

とんだ能無しかこいつは。体中打撲だらけの自分をさらに不利にしてどうする。
そいつは勇気とかそんな類じゃない。無謀って奴だ。
あるいは・・・・真のプレイヤー、なのか。

「いいや、俺とお前には男と女の差がある。一、プレイヤーとしてここは譲れない。
だから、俺様も本気で相手をしてやる。
・・・それに、俺が得意なのはテニスだけじゃないしな。」

そして、プレゼントしてやるよ。
もったいない程、完膚なきまでの美しい破滅ってやつを。

「・・・・・わかったわ。
じゃ、さっそく移動しましょう。」



―――体育館



『勝つのは跡部!負けるの黒川!』

館内に広がる跡部コールの声と微量の黒川ハルへの罵声。
それを俺の指が擦れる音で止める。

パチン!

「・・・勝つのは、俺だ。」

毎度恒例の跡部コールだが、一つ違うのはこれがテニスではなくバスケと言うことだ。

「勝負は、先にゴールに3回入れた方が勝ち、で、いいな?
ボールはやる。コート権は俺がもらうぞ。」

「ええ、問題ないわ。」

ここに着てまで奴は飄々としている。
強がりにも本当に殺気に気づかないようにも見えない。
そして何より、隙が無い。


ピ―――――!


始まったと同時に、驚愕をすることになった。
先ほどまでとは空気ががらりと変わる。

インサイトを使っても、何処にも無いのだ。弱点が。
正面に立っているだけで威圧感を感じる。

そして―――
音も無く近づき、ボールに手が出せない速さで俺を切り抜ける。
次の瞬間に聞こえてきた笛の音にはっと目が覚める。

俺が抜けなかったと言う衝撃にいつまでも放心して入られない。
何とかしてボールをこいつの手に渡さない為の術考えなければ。
俺にボールが回ってきた瞬間、久しぶりに震えた。
tremble-「武者震い」がおきた。気分が向上する。もっと、戦いたい。

定位置につき、その位置から3Pを狙う。
綺麗な放物線を描いて、ゴールに入る、はずだった。
だが、その前の「奴」は、ゴール手前でロングジャンプをして悠々と取ってしまったのだ。
常人じゃボールの早さには間に合わないし、岳人には及ばないが、世界陸上に出れるレベルのジャンプ。
こいつは、本物だ。


「・・・っく、くくくっ・・・・・はぁーっはっはっは!
面白い。黒川ハル、ここからは容赦しねぇ。」



――持久戦に持ち込むと、顔にこそ出ないが傷が痛み始めたのか、動きが鈍くなる。
そのおかげで「氷の世界」の氷も存在し始めてきた。
だがその世界の中ににいまだ一つ孤高に光る炎、黒川ハルは、どこか俺に似ている。

お互い2Pまで持ち込むと、相手の顔の表情が苦痛の色を帯びる。
さすがの俺でさえここまで動き回る疲労するのに、あいつは本当に化け物か。
・・・・・・それだけ、本気なのか。

もはやもうおぼつかない足で近づいてくる。
貧血で前が見えないのであろう。その状態で立っている方が奇跡に近い。
そして、そこから走り出す。だが速さはまったく劣らない。なんていう根性だ。
目で追うのがやっとなこのはやさは、もうすでに俺の一歩後ろにいて、ゴール下で綺麗なフォームを作り、そして入れる――――瞬間。

黒川ハル限界で倒れる。
傷だらけの体で1時間ぶっ続けで戦ったんだ、無理も無い。
急いで応急処置を行い横抱きにする。
保健室で横にさせたあとは疲れがどっぷりと出てきた。



・・・・・・なぜ、助けたのだろうか。
体が勝手に動いた。・・・いや、ちがう。
プレイヤーとしての誇りがそうさせたんだ。
こいつほどの者がここで潰れていいはずが無い。

そして・・・そして俺は。


こいつに、惚れたのかもしれない。
その気高さに、正義感に、・・・・その、まっすぐな、炎のような瞳に。



ゆっくりと黒曜石の瞳が現れる。
艶やかな漆黒の髪は、ハルの白い肌が良く映える。

顔を若干歪ませながら体を置きあげる。
しばらくして静かに口を開く。

「・・・・わたしは、負けたのね。」

「ああ。お前は負けた。
だから、俺様の好きにさせてもらう。」

「・・・覚悟の上だわ。靴でもなめればいいかしら?」

自虐気味にそう発するハルに、
身を乗り出してあご無理やりを上に向かせる。
間近で見るとなお綺麗な瞳だ。

「いや、だが立て壊しの件は破棄だ。
そのかわり、今日からお前は、俺様のものになれ。」


「・・・・・後者はお断りさせていただけないかしら。」

心底いやそうな顔をする。
だが、こちらも譲るわけには行かない。

一目惚れも馬鹿にはできないようだ。
きっとお前が瞳に映った瞬間に、俺にはすべてがわかってたんだ。


腰に手を回し、体を引き寄せる。
痛みを訴える前にその口を塞ぐ。

――ちゅ、

「!!!!!!」


触れただけのキス。
ハルは耳まで真っ赤に破顔させ、やがてそれが驚愕、困惑怒りへと変わる。
こんな一面見られると思っていなかったから、新鮮で笑ってしまう。

「・・・ッ、私の・・・・、私のファーストキス返せええええええええええ!!!!!!」

「ぐはッ・・・!!!」

「変態!ナルシスト!歩く××!!気持ち悪いのよにやけないでくれないかしら!!!慰謝料を請求するわ!!!」





俺様とglowing

(強気な女は嫌いじゃない、が・・・鳩尾!!!)(少しでもドキッとした私死ね!!!)



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ちなみに、途中ハルさんが言っていた「悪知恵」とは、
自分が傷つかないとわかったからバスケ部に手を出し始めた感じのあれです。

いろいろカオスな感じになりましたが、読んでくれてありがとうでした!