「蔵、今日そっちお邪魔して良い?」
「!!・・・ええで!」
大阪四天宝寺中学校に入学して早3日。
ハルとまた会えた事は嬉しい誤算やった。
けど、ハルは男装していたのだ。
まだ理由は教えてもらってへんけど、どんな格好しててもハルはハルやし、正直ハルより背が低い現状、ハルが男の姿であったほうが良かったのかもしれん。
家は隣なのにわざわざ家に来る許可を取ったり・・・やっぱハルは大人や。
帰り道。席が離れてて一緒に話せない分、こういう時間が嬉しい。
ハルとは幼い頃からずっと一緒にいて、・・・小学校に上がる前に外国に言ってしもうたんやけど、小さい頃からその性格は変わっていなかった。
「ただいまァ。
おかん、ハル来たで!」
「お邪魔します。」
靴を脱ぎつつ足でそろえて、キッチンまで小走り。
おかんはそれを予知してたかのようにはいはい、とキッチンを出た。
後ろからやってきたハルは、こんばんは友里さん、と言って軽く会釈した。
「いらっしゃいハルちゃん。
明香里と友香里呼ぼか?」
「そう・・・ですね。
明香里姉さんにはちょっとアレですけど・・・よろしくお願いします。」
・・・?
何のことやろか。
おかんは1階から二人を大声で呼ぶと、友香里が何?とかいってドタドタ降りてきた。
ハルを見るなりびっくりした様子で、開いた口が塞がらない、といった感じや。
ま、そらそうやろ。
幼い頃にあった「ハル姉ちゃん」が男の格好しとるん・・・
「い、黒川ハル!!!!」
「や。
また会ったね、友香里ちゃん。」
「え・・・えええええええええ?!」
*
「へぇ・・・それで知り合い、と・・・。」
「そうそう。
おかんびっくりしたわー・・・突然来るんやもん。」
「その節はお世話になりました。」
話を聞く限り、どうやらエクスタがうちに来たときの事件に一枚噛んでたらしい。
・・・・・・待てよ?てことはまさか友香里の初恋の相手って・・・・・・・・・!!
ハル・・・恐ろしいこ・・・・・・・・・!
「あんときはほんま、ありがとう。
今でも感謝しとんで。」
「あの事件は友香里ちゃんの頑張りがあったからこそだよ。
俺一人だったら家を探すのだけで日が暮れてたよ。」
ハルは膝にエクスタを乗せ、自分を緩やかに下げて話していた。
なるほど、こりゃもてるわ色男。・・・あ、女やった。
というかエクスタ、何でや!俺に懐くのにも1ヶ月かかっとんのに・・・!!!
「あと友里さんも。あんないきなりですみませんでした。
この子の足が治ったのは友里さんの適切な処置のおかげです。」
「いややわ〜ハルちゃん。
もっと褒めてええで!」
「ええんかい!」
なんや、俺を無視して話が展開している。
ハル、俺に話が合ってわざわざここまで来たんやないの・・・?
「っと、そろそろ本題に入りましょう。
蔵、それに友香里ちゃん。友里さんも。
まずは騙してごめんなさい。」
エクスタを床へと離し、深いお辞儀。
動き一つ一つが洗礼されていて、無駄がない。
「知っての通り私は女です。
男装は・・・小5の時、日本に帰ってくるのを境に始めました。
理由はまったくの私情で、話す程の大それたものではありません。
ただ・・・伏せて欲しいんです。私が女だって事。
こんなこと無謀だって分かっててやっています。
けど、どうしても諦めきれない。
せっかくこの世界に生まれることが出来たんだ、このままの生活で満足なんて、出来ない!」
語尾の口調がキツくなった。
本人もそれに気がついたんか、すみません、と言って咳を一つした。
「・・・どうしてハルちゃんは男にならんといけんの?
女じゃ、出来んことなん?」
おかんの言い分はもっともやった。
「・・・・・・女で、不可能なことではありません。
唯、事態がより簡単に収まるのが、男なのです。
それに・・・・・・女子のテニスでは、限界があるんです。」
[テニス]
・・・おかしい。
ハルのテニスへの執着は普通と違う。
ある意味狂っとるんや。
・・・なにが、そこまでハルに執着させるんやろうか。
確かにテニスはおもろい。けど、俺にとってはそれだけや。
「私は女です。本来女が男子のテニスに干渉することなんて出来ることではない。
でも、私は私の知らない究極のテニスをこの目で、一番近いところで見たいんです。」
「・・・・・・・・・分かった。おかんは協力します。
なんたって、欲のない我が子の頼みやもんなぁ。」
「・・・・・・友里さん。」
おかんはハルにウィンクを送った。
もうミソジになって4年も過ぎたおばはんが何をやっとるんや。
「口に出でんで〜蔵ノ介。」
「あいだだだだだだ!!
すんまへん!すんません!」
「・・・・・・あのハル姉ちゃんが男に変装なんて・・・やっぱ納得いかへんけど・・・。
でも、ハル姉ちゃんはハル姉ちゃんやもんな!
なんやよーわからへんけど、目標は達成せなあかんで!がんばりや!」
「・・・ありがとう、友香里ちゃん。」
「で、蔵ノ介は?」
「あ、俺・・・は・・・・・・もちろん応援すんで!
友香里に先越されたけど、ハルはハルや!」
「くーちゃん、かっこつかへんなぁ・・・。」
「やかましわ!」
上の階から姉貴が降りてくる足音が聞こえた。
「おはよ〜。
ん、なんや・・・ハルちゃん来とるやーん。
久しぶりに会って、どないしたんその格好・・・?」
さすが姉貴や・・・!
一発で男装したハルに気がつくなんて、一般人がなせる業やない・・・!!
「お久しぶりです明香里姉さん。
これはその・・・かくかくしかじかで・・・。」
「ええ〜!
じゃあハルちゃん女の格好できんの?辛ない?
せや、今日泊まってこう?一緒に風呂はいろ?」
「せやでハルちゃん。夕飯はもうつくってんで。
どうせ家帰っても誰もおらんやん、泊まってってや。」
「え、いや、でも・・・。
・・・・・・ちょ、アッーーーーー!!」
そうして姉貴に押し任されるハルを見て苦笑いする。
なんにせよ、こうしてまたハルと一緒に居れる時間が出来ただけでも俺は嬉しかった。
ほんまはあんとき・・・ハルが離れて行ってしまうようでちょっと怖い、なんて、口が裂けても言えんかった。