庭球 | ナノ


※捏造設定注意。












「テニス部員仮入部体験〜!」

どんどんどん!ぱふぱふ!

愉快に始まった男子硬式テニス部の体験入部。
私は(生物学上どう抗おうと)女なので、さすがに部員として入部することは出来ない。
ならばマネとして、と思いたったはいいものの、如何にしてか一年生の入部希望者と同じくらいマネージャー希望の女の子たちが多い。

運動部と兼部をせねばならないということでマネージャーなら、と思っている人ももちろん少なくはないだろうが、それよりも【男子硬式テニス部員】に興味がある者が多いように取れる。
毎年全国にシードとして出場できるほどの強さに加え、お笑いのセンスは抜群。そしてなぜか顔立ちがいい人が多い。
まあここまでくれば、青春を謳歌したいものにとってもテニス部に入らないこともないわけだ。実に興味深い。
しかし一つだけいただけないのは、マニキュアをしたり爪を伸ばしたり、髪の毛を結んでいなかったり・・・。中にはジャージに着替えていない人もいる。
マネージャー業がオシャレを気にしつつ出来るものだと思っている人が多いことだ。まったくもってそんなことはない。

一方、男子の方には新入生が大体30人ほどが集まってきていた。その中にも、小石川君と忍足君の姿が。
その中でも蔵は小柄な方で、興味津々と言った様子できょろきょろと辺りを見回している。
君がそんな調子だと私もはらはらしてしょうがないと、何故気が付かないのだろうか。

「んじゃ、マネ志望の人はこっち〜。
あー、やっぱ今年も集まったなぁ、女の子。
ん?自分、男やん。背ぇデカイし、部員として入ってもらいたいねんけど。」

女の子の中で、一人頭一つ出ているのはやはり目に留まったのか、私を名指しされた。
性別に関しては肯定も否定もしない。

「自分はマネージャー志望です。
ダメ、でしょうか?」

「ダメやないで〜。
むしろ体力あるマネ大歓迎♪」

「んじゃ、説明はじめんでー。
今日は手始めに、部員と同じように軽くテニスしてもらおか。
未経験でもええで。テニスに興味があればそれでええよ。
一人10球ずつ打ってくから、こっち返してきたってな。」

説明を受け、マネージャー希望の女の子たちは少なからず動揺を見せた。
ジャージに着替えていなかった女生徒も例外ではなく、不満を漏らしていた。
その声を聞いて、副部長の原先輩がこちらのコートに近づいて来、女生徒たちを一喝した。

「ウダウダ言ってないでやれやー!」

『は、はい!』


*


そして、原先輩直々のテストはとうとう私の番まで回ってきた。

「はい、次ー。・・・ラストかいな。
学年、組、名前!」

「一年一組黒川ハルです。
よろしくお願いします。」

「おお、例の男かいな!
んじゃー打球強くしても構わん?」

「ええ、望むところです。むしろ3球で構いません。
原先輩の本気の打球、受けてみたいです。」

「ほぉ・・・。
ええで、うちこんだる。」

「やめとき一年、ちょっとテニスが出来るくらいじゃ痛い目見んで!」

徐々に外野の歓声も高まっていく。
よし・・・このまま目立てればいい。

(この一年坊・・・大歓声の中でも物怖じせんとは・・・。
なかなかに試合慣れしとるようやなぁ。けど、それにしては名前が売れてない。)

「ま・・・打てば分かるっちゅー話・・・や!」

「、」

ダン

向かって右、角すれすれに剛速球。
音と速さからして、昨日打ち合った時点の蔵では相手にならないだろう。
少なくとも、私のまだまだ出来ていない体でもあともう3段階ほどが限度・・・といったところか。

「すみません、次、お願いします。」

私の合図と共に球を宙に浮かせる原先輩。
放たれた球を打ち返す瞬間、ボールにスピンがかかっているのを感じた。
ボールを捻らすことで打球をさらに重くし、速さを補う。
私はその打球を迷うことなく逆スピンをかけ、挑発するようにさらに重い打球で打ち返す。

もっとすごいの、あるんでしょう?、と。

「!!」

(コイツ・・・。)

おそらく反射的に動いたであろう原先輩は、原則としてコートより向こう側に返せばいいという決まりを無視し、あくまでもラリーを続行する気でいるようだ。
そして打つ瞬間・・・にやり、と・・・笑った。
それはお笑いとしての笑みではなく、獰猛な獣の笑み、とみなして良いものだろう。
球の速度は変わらない。しかし、重さ・・・

「・・・!」

ラケットを弾かれた。予想以上に重い。
否・・・あの球は、バウンドしてからさらに重くなったのだ。
途端、含むような笑顔を見せた原先輩。
・・・おもしろい。

「次、お願いします。」

今度のものは初めから出し惜しみしないらしく、はじめから重いのを出してきた。
しかし、これはバウンドするまで先ほどのものかは分からない。
なら・・・

「ボレーで返せばいいだけの事!」

おそらくこのボールは当たる障害物が多ければ多いだけ重さを増す。
ならば、最小限の重さで貸せばなんて事はない。

私はすばやく前に出て、パンチボレー。
球は私のラケットにスピンをして重くなったが、向こう側には返すことが出来た。
さすがに返せるとは思ってもいなかったようで、原先輩はおっかなびっくりは反応で重くなった球を拾う。
しかしその球は彼の予測に反して、反抗期のように高いロブを上げてこっちへと帰ってくる。
重さと速さは落ちた。私はチャンスと思い、落ちてくるロブにあわせて跳躍。

「・・・フッ!!」



――スパァン!





「・・・な」

「ありがとうございました。」

「なんでやねん・・・。」


後日、2度目に集まった仮マネージャーの数は・・・私一人だった。