庭球 | ナノ

「おもろそうやん!そのネタ、採用!

ただし、時が来るまでばらしたりばれたらあかんでぇ。
せやな・・・今知っとるのはワイだけ。そんなんバックアップのし様がない。
先生をもう一人と、生徒三人だけにはばらしてええよ。」

「おお、何か面白そうだなそれ。」

「せやろ〜?
分かっとりますやん黒川さん。
あ、ここに黒川二人おるんやった!」

「はっはっは。
こいつのことよろしくお願いします、校長先生。
失礼しました。」

「ほなまた〜。」











という経過があり、私はこの春から大阪四天宝寺中学校に通うことになった。
女子の制服がワンピースという、なんとも珍しい学校ではあるが、テニスは毎回全国上位に食い込むほど強い。
私も桜の舞い散る中スカート・・・ではなく、学ランで登校をしていた。
元の身長はまだ低いものの、女子の中では高い方、男子の中では平均並には伸びていたので、違和感はあまりないだろう。
中性的な顔立ちだ。中世的な顔立ちだと思っていたのだが・・・予想以上に女子に声をかけられることが多い。
実は、この男装は私が思っている以上に似合っているのかもしれない。

掲示板でクラスを確認すると、そこに「白石蔵ノ介」の名前があって私は少し期待が高まり、二度目の学生生活が始まることに胸を躍らせていた。
クラスに行けば、私の捜し求めていた人物は見当たらなかった。この雑踏の中、あのキラキラと輝くプラチナブロンドの髪はよく目立つはずだ。結論、まだ来ていないのだろう。
幼馴染との再会にここまで心が弾むとは自身思っていなかったので、6年ぶりであろう幼馴染をいかに大切に思っていたのか身に染みて内心苦笑を零した。

座席を確認するべく教壇に寄ったところで、廊下を結構なスピードでこちらの方へ近づいてくる足跡を聞いた。

「ハル!!!」

面影を残す声の主を認識し、ゆっくりと振り返る。
そこに在ったのは、寸分違わぬ白銀の頭と、私が知るより遥かに大きくなった良く知る顔。
彼はまだあの頃の記憶を頼りに"ハル"を探しているようで、クラスの女子を見渡した。教壇の方まで視線が来たところで、学ランの短髪である、あの時とは似つかない"ハル"に視線を固定した。
しかし私の姿を信じがたいのか、彼は目を瞬き、擦っては私を凝視しなおした。
誰もが固唾を呑んで事態を見守る中彼はツカツカと音が鳴りそうな足取りで近づいてきては、私の肩に手を置いてこう、言い放った。

「ハル・・・自分、男やったん?」

おずおずとした様子で放たれた言葉に私は吹き出しそうになるのを必死にこらえ、彼に向けて最上級に相好を崩して言い放つ。

「大きくなったな、蔵。」

「・・・!ハル−−!!!」

言うが早いか、蔵は神妙な顔つきが嘘のように表情を変え、ほころぶような笑顔で首に巻きついた。
私も反射的に受け止めそうになるが、今自分が「男」として振舞っていることを思い出してやんわりと引き剥がす。

「久しぶりだな、蔵。
6年間で随分変わったが、俺に懐いてるのは相変わらずで安心したよ。」

「なんや、帰って来とんのなら言うてくれれば良かったやん!
もうどこにもいかへんの?」

嬉々として私と話す蔵はさながら忠犬のようで、自然と頬が緩んだ。

「どこにも行かないよ。
テニスは続けているか?」

「やっとるで!
また毎日打ち合おうや!」

「ああ・・・、」
「ほらほらー、着席ー。
着席してやー。」

そうだな、そこまで言おうとしたところで担任の先生が入ってき、会話が中断された。
蔵にまたなと言って次席へと着席する。
ふと蔵の席に視線を送ると、彼と眼が合う。
どうやらずっと見ていたようで、彼は多少の驚きの後私に忠犬スマイルを向けてきた。
どうやらずっと視線を向けていたようだ。きっと困惑少々嬉しさ大半、というところだろう。・・・どう説明しようか。


その後も蔵の熱い視線・・・を受け続け、やっとの事放課後に。
当然のごとく新入生は部活動の勧誘を受けたり、部活動を見学したりするわけだが・・・。

「うおおおおおおおおおおおお!!
一年一組はどこじゃーー!!」

HRが終わった途端、遠くから廊下を駆け抜けてくる二年生の姿を捉えた。
その人は見事にここ一組を過ぎ去り、そのすぐ後に轟音。おそらく、突き当りのロッカーにぶつかったのだろう。
そして、上級生の反対方向から新しい声がかかった。

「ヒラゼン先輩一組過ぎとりますがなー!!そこロッカー!」

「突っ込むの遅いわっ!!!!!」

その二人の上級生の一連の出来事に、一組中ところか、フロア中が笑いの渦に包まれた。
どうやら、これから「新入生歓迎お笑い祭」というものが始まるらしい。まったくもって笑いの好きな学校である。
しかし、私は私で今までにない校風に胸を弾ませていた。

とても濃い新入生歓迎会の後、各部の紹介などが始まった。
どうやら四天宝寺中学は「文武両道」ということで、文化部と運動部を兼部する風習があるらしい。(別に強制というわけではないので兼部をしない生徒もいる。)
とはいえ、一学年約360人。一つの部活に約40人の生徒がいるということは明らかに計算が合わない。事実、帰宅部に所属する生徒も珍しくないということなのだろう。
とくに個性を伸ばす事で逸材を育て上げる四天宝寺中の方針は、生徒にのびのびとさせることで強くのし上がってきた。
その方針のおかげか、部活動の大会実績はどこも輝かしかった。

ちなみにテニス部の部活紹介に出てきたのは、先ほど廊下でドンチャンしていた中三と中二の先輩。
ヒラゼンこと平善之部長とハラテツこと原哲也先輩というのだそうだ。
二人とも全国区の四天宝寺の中でもトップレベルの技量とのことだ。


「・・・・・・ハル。」

「ん?」

「俺・・・テニス部はいるわ。」

「ちなみに・・・決め手は?」

「先輩のギャグ。」











「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ。」











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6/21一部編集