庭球 | ナノ


「国光、今日・・・行きたい場所があるんだけど。」


私のその一言に二つの返事で答えた国光と、夏の日の陽炎を歩く。



*



「・・・その行きたい場所が、ここ?」

「そーそー♪
って、あらら・・・時間間違っちゃったな。」

今私たちが来ているのは、Jr.大会。
数回遊んでいるうちに随分と仲良くなった(というかあいつは私に勝ちたいがために寄って来ているのかも知れない)国光。
この前ちらりと聞いたら出ないらしいが、私は少しだけ出したい気持ちがあって場所も伝えず誘ったのだが・・・。

「・・・・・・俺はこの前出ないといったんだが。」

「ま、まぁまぁ。
それにほら、もう終わったみたいだしなかったことにしよ?な?」

「・・・・・・・・・。
終わったんなら、打っていく事にしよう。」

お得意の黙殺の後、仕方ないなと言った表情でそう口にした。
なんだ、やりたかったんじゃん!と大見得を張るとまたもや黙殺される。
小学生の国光ににらまれても凄みはあまりないが、それを口にしたら絶交されそうなので正直に謝っておく。

「じゃ、いこっか。
ここ普通に貸してくれるよね?俺よく知らないけど。」

「・・・・・・はぁ。
ここは公式試合で使っているとき意外は、一般開放されている。」

大げさなため息をつきながらも、ちゃんと答えてくれるのがこやつのいいところだ。

コートに入ろうとすると、奥に遠目でも分かる蒼い髪の美少年と、キャップを後ろに回した少年。
どこかで見たことのある風貌に、瞬時に立海の三強のうちの二人と理解した。
となると、ここは国光と真田、幸村が初対面を果すところではなかったか。
・・・・・・つまり、手塚は元から此処に来るつもりだったんじゃ・・・・

「やあ、君たち・・・打っていくのかい?」

テニスコートに入っていくと、こちらから声をかけずとも言葉がかかった。
声の主は蒼く作り物のような顔の幸村精市。
私は手を上げる彼に答えるようにして手を上げ返し、近くに行ったところで真田も視界に入れる。
なんというか・・・・・・・・・幼い。3年であそこまで変わるものなのか。

「そこの黒い帽子の・・・・・・苦労してるんだな。」

「??」

「いや、何も言うな・・・強く生きろよ。」




「俺、黒川ハル。
お前は?」

「俺は幸村精市。こっちは真田弦一郎だよ。」

「手塚国光だ。」

「へぇえ!二人そろって『真田幸村』じゃん!
幸村、綺麗な顔してかっちょいい名前だな。」

そう口にすると、幸村は心底機嫌の悪そうな表情と声音ではっきりと口にした。

「ヤだよ、俺がコイツとセットみたいな言い方。
不快だから黒川は俺の事苗字で呼ばないでね。」

「なっ・・・!!?」

それにいち早く反応したのは、真田その人であった。
なんというか・・・哀れ也。私は幸村のその命令に近い言葉に是と回答した。

「で、俺たちは今さっき来たところなんだが、今日の試合、誰が勝ったんだ?」

とりあえず自己紹介がすんだところで、聞きたかった本題を切り出す。
国光が聞きたそうにしていたことを口に出す。
心なしか国光もありがたそうな視線を向けている気がした。
その問いに目を伏せた真田。
にっこりと微笑んだ幸村。

「「なるほどね/な。」」

今の一挙一動で把握した私と国光は、同じ事を思ったのか顔を見合わせた。

「なあ、幸村。
疲れてるところで悪いけどさ、俺とテニスしない?」
「真田、テニスしないか?」

わお、息ぴったりだね私たち☆
そんなおきらくなことを考えていた私は、幸村の返事を待つ。

「んーでも、もしかしたら黒川、
俺とテニスしたらテニスキライになっちゃうかもしれないよ?
実際今日だって・・・。」

「はっ、それはないな!
俺、テニス大好きだから。」

即答をして見せた私に、幸村が唖然と目を見開いた。
そして次には歳相応にくすくすと忍び笑いをしていた。心底楽しそうだ。

「・・・っはは!そこまで即答されるとは思わなかった。
いいよ、やろうか・・・テニス。」

「よっしゃ。
国光、そっちはどうだった?」

真田を誘った国光に聞いてみると、こくりと一度だけ頷いた。
了承を得たようだ。

たのしくなりそうだ。





私は狂おしく笑いながら決まり文句を呟く。


「・・・さぁ、お遊戯の時間だ。」






***






戦況は互角だった。

幸村ははじめから完璧なテニスをしていた。
一切の乱れのなフォーム。
確実に間に合わない場所に打ってくる感覚に3年後に見せる神業、イップスによる精神崩壊の前触れを節々と感じさせるものがあった。
相手を冷静に分析し、的確に自陣の死角へと打ち返す。なるほど、これは手ごわい。
しかし私も私で、引く気はまったくとして持ち合わせていなかった。




的確で完璧なテニスなら、私の得意分野じゃないか。



「・・・へぇ、すごいね。
俺と対等にテニスする人なんて、始めて見た。」

「それはどーも・・・っと!
でもこのままじゃ決着つかないから、そろそろ本気出してもらえない?」

・・・そう、さっきから一球も落としていないのだ。
既に20球は打ち返しているであろうが、この球で1ゲーム目の0-0の状態。
丁度良く体が温まってきた所で、仕掛けてきたのは幸村のほうだった。

ロブでもない普通の球を、経験者のスマッシュ並みの速さで打ち返してきた。
私は反射的に追いかけるが真反対にいたためにギリギリ届く形で打ち返す。
しかしラケットのの端に当たってしまい、高いロブがあがってしまった。
今度こそ体制を立て直し仕切りなおそうとするが、幸村はそれよりも早く体制が整っていない私の死角に剛速球を打ち込んできた。

「...oh, my god.」

武者震いを感じた。

今の速さのスマッシュを難なくこなす幸村は、もう大人の大会でも引けを取らないかもしれない。
少なくとも、前世のテニス界だったらこの歳で世界を狙える。

ボールを目で追うので精一杯だったのだ。
今まであったテニスプレイヤーよりも、迅速で、完璧だ。

「・・・・ふふっ」

・・・・・・・・・おもしろい!!

「どうしたの、笑ってるけど・・・。」

「っはは!おもしろいんだよ、テニスが!
精市、君に出会えたおかげで私は武者震いを感じているんだよ。」

口調が戻っている、そう気がついてもあわてる事は出来なかった。
あまりにも愉快だ。この世界は。私を退屈にさせてはくれない!

「びっくり。
俺と戦った子達は皆テニスをやめていったのにね。
今日で2人目だ、俺のテニスで諦めた顔をしない子は。
俺も、今日は初めてなことばっかりでたのしいよ。」

「・・・ふふ、ああ。
改めて、よろしくな。」

サーブ。
今度は、私の出せる最高のスピードで。
それに目を見張るどころか反応すら出来ない幸村だったが、次の時にはその瞳は闘志に燃えていた。

楽しませてくれよ、神の子さん。







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お久しぶりです。いよいよ神の子登場ですね。
ハルの近くの登場人物は主に四天、立海、氷帝、青学の各部長です。
次からやっと、原作沿いです!!