庭球 | ナノ


春。
小学6年の、春になった。
原作との時間軸は、あと3年。
中学からは大阪の家で一人暮らしをし、四天宝寺中学に通うつもりだ。
今回3ヶ月私が通う学校は青春台第一小学校。
そう、青学の近くなのだ。

私は半ば聖地巡礼のノリで青春台の町を物色しつつ歩いている。


大通りに逸れた人気のない道を歩いていると、丘の上にひときわ大きい図書館を見つけた。
私はそこまで5分ほど歩いて行ってみると、利用者はまばらだが本は豊富そうないいところだった。


2階の奥の方まで進んでいくと、まばらだった人気がなくなり始める。
このエリアは哲学の本などが置いてあり、大学生などの専門分野を勉強している人が利用しているようだ。

「・・・ん?」

その一角に、梯子を使って一番上から二番目の本を手に取っている小学生を見つけた。
その子は手に取った本を開いて、梯子に座った状態でその場で読み出した。
遠目から見た本のタイトルは、アインシュタインの「相対性理論」。
・・・随分と難しい本を読んでいるな、この少年は。

「随分と難しい本を読んでいるな。」

「・・・、・・・・・・。」

少年は私に気がつくと、しばらく無言で視線を交わした。
その容姿が、ふと誰かを彷彿とさせる。
それが何か分からず、取りあえずと話しかけてみる。

「小学生が相対性理論なんて、理解できるのか?」

「理解が出来ないから、知ろうとする。
人間は知ることを楽しむ性質がある、という偉人の言葉がある。」

アリストテレスか・・・。
見たところ、相当な数の本を読んできたようだな。
まったくその歳から・・・どこの天才だ。

「それで、相対性理論については分かったか?」

「分からない。
まだ自分には、難しい。
君には理解できるのか?」

「っはは!自分にはまだか。
いまだに大人でもわからない奴だっているのに、自分は分かるという絶対的自信・・・気に入った!
お前、名前は?」

「手塚国光。」

「・・・!
ああ、なるほどな!」

そりゃ、こんなに頭がいい訳だ。
それにしても面影はあるものの、堅物という点では似て非なるものがある。
手塚は小さいとき、こんなに可愛かったのか。
まったく・・・逞しく育ってしまったな。
いや、これから育つのか。

「?・・・何?」

「いや、こっちの話だ。
私は黒川ハル。
友達にならないか?」

「・・・・・・よろしく。」

「よし。じゃあ、一緒に遊ぼうぜ!」

その言葉にかすかに目を見開いた手塚。

「・・・君は、俺が今本を読んでいるのが見えないのか?
今日は図書室に来たんだ。君と遊ぶのはまた今度にしてくれ。」

その回答が私の知っている手塚らしくて笑ってしまった。

「つれないな。
俺はお前をテニスに誘おうかと思ったんだが・・・また今度にするか・・・。」

がっかりそうな声で言う。
その「テニス」の言葉に反応したのか、手塚は本から顔を上げてじゃあなという私を呼び止める。
背を向けている手塚に対して笑みが浮かぶ。計画通り。

「君、テニス経験者なのか?」

「ん・・・ああ、そうだけど。」

それが何か?という顔で彼を見る。少し後ろめたくもなるが、激しく愉快だ。
先ほどから黙っている手塚はとうとう口を開いた。

「強いか?」

「・・・そうだな、強いよ。」

「行く。」



*



私たちは途中手塚の家に寄ってストリートテニスに来ていた。
しかしそこは既に中学生が3人ほど使っており、ラケットを持った私たちを見るなり絡んできた。
身長差は30cm程あり、傍から見ればどうしても私たちが気圧されているように見えるだろう。

「おいおい坊ちゃん、ここは今俺らが使ってんだから他を辺りな。」

「ここは公共の場だ。相手が年上だろうと平等な権利がある以上、譲るわけにはいきません。」

わお、さすが手塚。
物怖じするどころか顔色一つ変えずに淡々とそう言ってのけた。

「っ、このガキ!
おいお前ら、やっちまおうぜ。」

「まーまて情けない。
ここは年上らしく、勝負で力の差を見せてやろうぜ?
そうすればこいつらも納得すんだろ。・・・それに、そこの眼鏡の表情(かお)を崩してやりたいしな。」

「・・・ククッ、お前マジ性格悪いわ。」

怪しくニタニタと笑う中学生たちに、私は手塚の顔を見ると、彼も同じ事を伝えようとしたのか視線が合った。
二人で頷きあい、にやりと笑った私は中学生に向けて声を発する。

「お兄さん方、それでいいですよ。
その代わり、仮に俺たちがいかったら本当に出て行ってもらえるんですよね?」

「おーガキ。当たり前だろ?
まあお前らじゃ俺らのうちの一人に勝つのも難しいだろうから、ダブルスでいいぜ。
俺らは一人ずつ戦ってやるから。」

その言葉に私は手塚を向く。

「プレイスタイルは?」

知ってはいるが、一応聞く。
途中で私がでしゃばって話が矛盾してしまうかも知れないから。

「オールラウンダーだ。黒川は?」

「お前に同じ。
・・・向こうは聞き入れてくれないようだし、俺がお前のサポートするからのびのびやってくれ。」

「いや。俺が「じゃあお兄さん方。
俺たちはダブルスでやるんでお兄さん方もダブルスでいいですよ。
――俺たちにテニスって奴を教えてください。」

内心でにやりと笑う。
もちろん、表面上は人懐っこい純粋な笑みを浮かべて。

「うわ、このガキ超美人。いじめたくなっちゃうなー。」

「ありがとうございます。」

「褒めてねぇよクソが。
・・・フ。じゃあ俺らでダブルスくもうぜ?
お前は審判な?これでいいだろ?」

鬼大将のような役回りの一人がてきぱきと指示をしていく。
最後に有無も言わさぬ形相で私たちに不適に笑いかける。
・・・おいおい、半ば脅しじゃないか。

「はい。」

手塚も声に出さず頷くと、試合が始められた。








「・・・さぁ、お遊戯の時間だ。」











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あわわ、また前後編になりそうです!
明後日までに後編アプリマス。ハイ。