庭球 | ナノ

「ねぇねぇねぇきいたーーー!!?
今日このクラスに転校生来るんだって!!
しかも超美人!!」

「えっ、まじで!?
男?女?」

「うちは見てないけど、職員室で見たって子は男だったってさ!!」

その一言に、クラスの女子はいっせいに浮き足立って黄色い声を上げる。
同時に、男子は少しだけ落胆の色を見せたり、ブーイングをしたりさまざまだ。

沢山の声が行きかい、クラスの音がざわざわという雑音と化したとき、
担任の教師が大きな音を立てて5年3組のドアを開けた。

その音を聞いて、先ほどまで騒いでいた子供たちはいっせいに自分の席へとつく。

「皆静かにー!!
えー、ゴホン。朝の会を始めます。

まず最初に、今日からこのクラスの仲間になる子を紹介します。
入ってきてー。」

その一言でクラス中はまたざわめきだすが、何者かによってクラスの戸が引かれたと同時にに静寂が生まれる。
その人物は静かに教卓の前まで来ると、先生からチョークを渡されて、黒板に自分の名前らしき字列を書く。
チョークを置くと静かにクラスを見渡し、かすかに微笑む。

「初めまして、黒川ハルといいます。
親の事情で数ヶ月間皆さんと一緒に過ごすことになりました。
短い間ですが、どうぞよろしくお願いします。」

しぃ・・ん・・・・。

瞬間の静寂の後、クラス中が浮き足立つ。
頬を染めるもの、立ち上がってよろしくなーと叫ぶもの、興味なさげに窓の外に視線を向けるもの・・・様々だ。

「じゃあ、黒川君はあそこの一番後ろの席に座ってね。」

「はい。」


後、朝の会が終了するとクラスの大半がハルのところへとやってきた。
ハル本人は質問攻めにも嫌な顔一つせず、笑顔で淡々と質問に答えていく。
そんな中、一人の少年がみんなの間を割ってハルのところへと向かった。

「ほーらほら!みんな質問は後々!
早く移動しないと、授業始まっちゃうよ?」

その声で人だかりがいっせいに時計に目を向け、急げといいながら移動教室をしていく。
その光景を見たハルはため息を一つ吐き、皆に呼びかけを行った少年に礼を言おうと顔を向ける。
しかしその顔を見た瞬間、言おうとした台詞が頭から離れた。

「え・・・と、・・・さっきはどうもありがとう。
名前を聞いてもいいかな?」

「どーいたしましてっ♪
俺?千石清純っていうんだ。
ね、ハルって男にしては珍しい名前だよね?実は女だったりして。」

やはり、とハルは思った。
この学校の名前は山吹第一小学校。
もしかしたら新たな王子様に会えるかもと多少の期待はしていたが、まさか同じクラスになるなんて。
そんなことを思いながらハルは質問に即答する。

「ん、女だよ。
別に俺は性別を男だと言った覚えはないけど。
・・・まあ、こんな格好をしているけどね。」

「へえ、そうなんだ・・・・ええっ!?
本当に女なの!?ごめん、気がつかなくて。」

「ふふ、いや、それでいいんだ。
男装しているのも確かだしね。でも、面倒くさくなるから二人だけの秘密で。・・・いい?」

「・・・っ、
う、うん。じゃあ、秘密にしておくよ。
その代わり、人がいないところではハルちゃんって呼んでいい?」

「―――」

キーンコーンカーンコーン・・・

「うわっ!
1時間目理科なのすっかり忘れてた!!
ハルちゃん、教科書ないよね?筆箱もって早く!走るよ?」

彼女が口を開こうとしたとき、丁度授業のチャイムが鳴った。
その音に清純はあわてて、ハルの手を引いて走り出した。

清純がハルのことをハルちゃん、と呼んだことに対して笑みを浮かべながら。









――結局、実験室に先生が入って来た後についた私たち。

「こら二人とも!
どうしたの?早く席に着きなさい。」

「ごめん沙耶ちゃん先生!!
俺が転校生を無理やり話しに付き合せちゃったらチャイムが鳴って・・・。
だからハルは悪くないよ!」

「おーいー清純ー!
お前さっき俺らが黒川と一緒に話してたら邪魔したのに一人だけ抜け駆けかよ!」

「そうだよ、清純君ずるーい!」

「いやあ、ごめんごめん。
実は俺も転校生と話したかったんだ!」

開き直ったように大声でそんな宣言をする彼に、クラス中が笑いに包まれる。
私はそんな彼の、正直で明るいところに素直にすごいと思った。

「・・・ありがとう、清純。」

私は少しだけ息を切らしながら皆に向かってへらりと謝ってる彼だけに聞こえる声で、そっと礼を言った。
彼は急いでこちらを振り向いたが、私はそれよりも早く先生のほうへ向かった席をたずねる。


少しだけ、嬉しかった。
小学5年になって、父の引退試合が終わって日本に戻ってきた私と父は始め、母と一緒に東京へ住もうということになっていた。
しかしその後すぐに母さんはロケ、父さんは全国で子供たちを指導してくれとの依頼が来たのだ。
結局私は父について一箇所3ヶ月ぐらいのペースで全国の小学校を回ることになった。何故父について言ったかというのは、無論テニスの師だから。
そのなかで、今回が4回目の転校。次の場所が山吹に決まって少し気が弾んだ。

私は日本に来ると同時に、赤みを帯びた腰まで伸びた髪を肩に触れるかぐらいの長さまでばっさりと切り落とした。
そして口調を私から俺に変えて、男装を始めたのだ。
4月当初はまだ不慣れなことも多かったが、年度が変わって2月、冬真っ盛りの今。
女の子扱い、というものを忘れ、すっかり男として過ごしてきた私にとって、清純が「ハルちゃん」と呼んだことに対して新鮮だと思った。

だから、少しだけ、嬉しかったのだ。

なぜ?


・・・もしかしたら、私は本心では女として過ごして生きたいのかもしれない。

そう思うと笑えて来た。


そうか、私はまだ「女心」を持ち合わせていたんだな。






後ろで大雑把に束ねた髪が、さらりと揺れた。





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予想以上に長くなってしまいました(´・ω・`)
それと、ハイスピードで原作に向かっているのでこんなに飛んでしまってすみません。w
もし、意見があれば原作沿い前のお話を詳しくやろうかなとか・・・。意見があればですけども。
(9/10 一部編集)