庭球 | ナノ


俺には幼馴染がいてる。

2歳の頃から一緒で、いつも一緒に起きて、食べて、遊んだ。
でもあいつは、いつも話す言葉が難しい。

そないな言葉話す人は周りにはおらんのに、何でやろな、なんて思っとった。
だから俺は、小学校に上がると国語辞典を買ってもらって、ハルがいった分からん言葉を調べるようにしていた。

だけど、そのハルは今は俺の隣にいてへん。





別に死んだとかそんなわけやない。
ただ、親父と一緒に海外に行っただけや。
ハルのおかんは今は東京いって東京弁でニュースキャスターしとる。

今日、遠くにおるハルをよく思い出すのは、多分ハルと話した昔の夢を見たから。
やから俺は、その夢で言われたハルの言葉を辞書で引いてみることにした。


『君は、【運命】を、信じるか?

私は【運命】なんていう言葉は嫌いだ。
自分が選び取って走った道が、全て運命によって決められていたなんて考えてしまったら・・・。
一体私たちは、何のためにこの世に生れ落ち、死んでいくのだろうか。』


ちゃんとハルの言葉を思い出して、少しだけ重い広辞苑を広げて見た。

【運命】うんめい
人間の意志にかかわりなく、身の上にめぐって来る吉凶禍福。

【吉凶禍福】きっきょうかふく
めでたいことと不幸なこと

つまり・・・たぶん、俺の力じゃ変えられへん大きな力。
はじめからこうなるて決められていたこと。
そないなもんがあると、信じるか。

・・・そんな言葉、信じたない。
俺はいつも自分の納得できる事へと進んだつもりやのに、それが【運命】だったなんて。

辞書を閉じて、ちょっとだけもやもやした気持ちになった。
目の端っこに少しだけ見える薄い髪の毛が、少しうっとおしくなった。


「運命て、ほんまにあるんかなあ?」





目ぇ瞑って、昔話を思い出す。







あるとき、天才とゆわれた少女がおった。
その子はテニスだけが自分の全部で、救いで、友達だった。
負けなしのその子はテニスで一番強くなったんやけど、その歳はまだ20以下。
ほいで、その才能に嫉妬した人たちによってテニスに愛されたその子はテニスを失う。
そして思った。【これが神の与えし運命なのか】。
どうしてもテニスを諦め切れなかったその子は、2年。辛く苦しい手術とリハビリを経て、もう一度全国大会へ。
そして決勝の日・・・彼女はトラックに轢かれた。少女は思った。
【あぁ、運命とはなんて残酷なんだろう。】

こうして、テニス界を震わせた一人の少女は・・・永遠にその世から姿を消した、とさ。




【残酷】ざんこく
ざんこくって、どんな意味やったっけ。
確か、えらくえげつない・・・そんなかんじ。

永遠にこの世から姿を消すってのは、トラックに轢かれてもうたから、死んどるっちゅー意味。



椅子を後ろに倒せば、眼の前が丸い蛍光灯になって眩しい。
あの星が綺麗な夜に、ハルが話した昔話。こんな話をまだ覚えとんのは、記憶力がいいのか、まだ2年しか経っとらんからなのか。
・・・テニスを愛した女の子は、何で怪我までしてテニスをしたかったんやろか。
俺にはまだ、"愛する"ことがなんなんだかよう分からん。
辞書で調べたい意味をおかんにつかってみても、蔵ノ介にはまだよう分からん、言われた。

でも、テニスが好きや。おもろい。もっと強くなりたい。
愛する、って気持ちも、15になったら分かるんかなあ。

「なあ?ハル。」





「なーなーくーちゃーん、ゆかりとあそんだってー!!
なー!くーちゃーん!!」

下で、友香里の声がする。
おままごとせなあかん!なんて声を聞きながら、今日は明香里ねぇちゃんが帰り遅いんねやと思い出す。

「おー、まったってなー!」


昔話を頭から消して下まで走る。
ハルが帰ってきたら、次こそ勝ってやると心に誓って。






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すみません、次はイギリスとか予告しておきながら・・・。
前回で付箋を回収せずにずけずけ小3になってしまったことを後悔してます。(笑)
次こそは。俺様に会いに。